1月に見たライブ: ベイエリア、四日市

(2016/2/3 旧ブログより)

遅い帰省でしばし実家に戻り、31日には四日市のVortex(久々!)でZayのライブを見てきた。名古屋や大阪の友人たちがたくさんで、とてもたのしかったし、何よりどのバンドもよかった。大好きなMidnight Resurrectorは本調子じゃなかったみたいだけど、好きなバンドのライブというのはやはり気持ちが高揚するものです。大阪のassembrageもようやく見れて、さすがのオールスターバンドはやっぱりクオリティ高いなあと妙に納得。このバンドの人たちのやってる一連のバンドはどれもかっこいいし、常に何か新しいことに取り組んでる印象がある。セコナンはじめ、いろいろ楽しみです。akkaはヒリヒリとした初期衝動、この際ヒリヒリ感とでも呼んでおこうか、そういうものを感じたライブだった。いつまでたってもこういうヒリヒリ感は忘れてはいけないなと。リハのときにメンバーの人たちといろいろと話す機会があって、彼女たちが先日行ったアメリカ東海岸ツアーの話とかも面白かった。さて、Zayは、ここでいちいち何か言う必要もなく、とにかく見たらいいと思う。シン君の言ってた「群れから離れろ」という言葉にものすごく同意する。ジャスティン・マーラーについての拙稿で言及した、「『個』であるということは、真に自由であるということ」を、シン君も感じていたと話してくれて、バンドによってそれを実践しようとしているこのバンドは素晴らしいと思う。
あとと久々に会う大阪の友人何人かに、「ブログ見てるよ」「エルジンの記事読んでるよ」と言われて、そういえば東京ではこんなことはあまり言われたことがないなという怨み節を思いながら、やっぱり誰かが読んでいてくれてるとわかると、調子にものって、間をあまりあけずにちゃんと書かないといけないなと性にもないことを思ったりもする。ただ今年は時間がある(はずな)ので、もっとここにマメに書こうと思うが、ダラダラととりとめのないことが連続するかもしれないのでご容赦を。
さて、先回にジェントリフィケーションのことでくらーい気持ちになったので、実はうす暗いそのサンフランシスコ、オークランドで見てきたライブやその他もろもろについて。以下日記風。
バージニアにいる間に何かライブはないかなとネットで探したり会った友人たちに聞いたが、探しだしたころにはSubpopから出てるガレージっぽいバンドのライブしかなくて何も見れずじまい。ただベイエリアに行ってから聞いたところ、何かと毎日のように色々やってるようで、週末には大小合わせてパンクとかハードコアとかそういうたぐいのライブが10以上やってる日もあるとかで、東京より大変だなあと。もちろんハシゴする人もいるそうな。サンフランシスコに着いた日にはCareer Suicideがオークランドでやっていたみたいだが、時間が遅かったのと近くのブリトーが食べたかったので結局行かず、Iron Lungのジョンと家で映画を見ようということになり。なぜか黒沢清の『カリスマ』を英語字幕で一緒に…。世界の法則を回復せよ…。

1月16日の土曜日の夜、Thrillhouse Recordsというミッション地区の、コミュニティ運営的なレコード屋の何周年記念かのライブということで、ジョンと一緒にミッション・ストリートを下った。ライブの情報を見ても、バンド名が伏せてあり、しかも「正装してきてね」みたいなことが書いてあったらしいが、よくわからないままいつもの格好で向かうと、レコード屋からすでに人があふれてレコードをゆっくり見れるような状況でもない。全員ではないが、どうやら普段はパンクっぽい格好してる人が、中途半端にだが本当に正装して来てるので、何かのパレードでもやるのだろうかといった雰囲気で見る分にはたのしい。レコード屋の奥、マリファナ臭い中(そういえばサンフランシスコはどこのストリートでもマリファナのにおいがした。カリフォルニア州じゃ医療用大麻が合法化されてかんたんに手に入るから(特定の病院で「腰が痛い」などと言えば、ハイになった医者が「これで治るよ」と処方箋をくれるらしい)、当たり前といえば当たり前なのか)を抜けて、泥濘の向こうにある階段を下ると、地下で大きなベースの音だけがしている。いわゆるハウスショウみたいなかんじで、地下でライブをやっていた。微妙な正装をした人たちはみんな若い大学生のように見える。もっぱら若く見られるアジア人の私も、彼らからしたら大学生か。
どれもバンド名はわからないのでジョンに聞いたりしながら、ジョンもよくわからないままライブを見ていたら、Yシャツにジャケット姿のPrankのケンとその彼女がいて、彼がリュックに持参のビールをくれてわいわいしゃべる。ケンは4月のガーゼのライブに行きたいとしきりに言っていた。その夜やってたバンドはどれもロウパンクというのかローファイというのか、正直私にはよくわからないが、これまで経験したアメリカのハウスショウと比べると、音のバランスが悪すぎて何をやっているのかよくわからない。あまり好みの音楽ではなかったのは確かだ。ただ今のベイエリアにはこういうバンドが多いという話も聞いた。演奏の技術がいらないし、ノリだけでできるのでいいのかもしれないが、パンクと呼ぶにはアタック感もないし、どこかダラダラとしていてしまりがない。冒頭に挙げたakkaみたいなヒリヒリ感もない。どちらかというとハッピーなたぐいのパンクだった。

18日はキング牧師の日ということでこちらは祭日。でもジョンは仕事なので、私はひとりミッション地区を散歩&レコ屋本屋めぐり。Valencia St.沿いにあるAquarius Recordsというレコード屋は、エクスペリメンタル系のレコードが多いよとジョンやジェフが言っていたので、とりあえずそこへ。レコードは持ってかえるのが大変だからやめておこうと、Sacred Bonesから出てたJohn CarpenterのLost ThemesをCDで買った。このレコード屋は商品のレビューがすばらしく丁寧で、例えば高円寺のRecord Boyのたまにある愛のこもった長文レビューを、ノイズや実験音楽にも転用したような感じだった。そのあとは本屋を数件まわり(ホラー&ミステリ専門店なんてのもあったな)、適当なスリフトストアに入ったら、こっちにいる間に買おうと思っていたシャーリー・ジャクスンの“The Lottery”が50セントで売っていてラッキーと思い購入。日本にもスリフトストアあったらいいのに。救世軍(The Salvation Army)でもいいから始めてくれればなあ、と思ったら、ホームページによれば一応錦糸町でやってるっぽい(ちなみに救世軍にはLGBT反対のポリシーがあるとかLGBT差別がひどいとかで、不買運動の動きもあるそうで、スリフトストアといえばgoodwill、という人も多いそう)。
そこからBARTに乗ってオークランドへ。仕事終わりのジョンと合流して、時間があったのでTelegraph st.を南下したレコード屋へ。ここはやる気がないのかお金がないのか、あまり新しいレコードもなく、中古のコーナーも一昔前のスラッシーなバンドのレコードが、誰も買わないようなとんでもない値段で売られていたりして、レコードブーム再来といえども、どこも左うちわというわけではないのだな。そのあと今日のライブの会場の1234 GO Recordsというところへ。暗い住宅街の中にあるお店だが、車を持っていないと来るのが難しそうである。このレコード屋はサンフランシスコにもお店があって、そこはかなり細かい映画までをカバーするレンタルDVD屋も兼ねていた。こっちは映画が生活に近いね。このオークランドのお店は、奥に100人入ったらいっぱいくらいのライブスペースがあって、手前でレコードやカセットを売っていた。ここはパンク、ハードコアのレコードが多く、値段もまだ良心的。
人がぽつぽつと集まりはじめて、レザージャケットやら鋲ジャンやらのパンクスもたくさん。車で来たり、誰かに乗せてってもらったりで、8時のライブ開始前にはけっこうな人が来ていた。知り合ったパットたちと外でしゃべっていたら、Crudos他のマーチンが現れる。シカゴからサンフランシスコに遊びに来たらしい。マーチンの話し方は元気でたのしい。昔泊めてもらったときの話など。もう10年以上も前なのかと。
ライブはOdio、Isotope、イタリアからのツアーバンドAnti you、Torsoという4バンド。どれも知らないなあと思って見てたら、Isotopeはドラムがかなり激しくてかっこいい。スネアを叩くのにどちらの手も使う変則スタイル。いいバンドだなあと思ってたら、セットが終わってベースの大男が「お前と遊んだことあるよ!」と話しかけてくる。思いだした、3年くらい前に1回新宿で飲んだことのあったポールだった。そういやオークランドに住んでるとか言ってたな、元気そうで何より。Torsoがトリだったが、よくありそうな速いバンドで特筆することなし。Griefみたいなバンドなのかと思って損したよ。終わってマキシマムロックンロールの人たちとかとしゃべってたら、先のポールが友人を紹介してくる。Lastsentence/Voco ProtestaのSplitをリリースしたペジャというやつだった。聞けばボスニアからの移民で、在米はや10数年。ヨーロッパは本当にやばいんじゃないか問題やらアメリカでの永住権の取り方などいろいろ教えてくれるおしゃべりさん。Vocoはアメリカツアーに来るんだ!としきりに言っていたが、どうしますかみなさん?

だらだらと書いてすみません。アナログレコードについてちょっと書いておこうと思ったのだった。先述のようにアナログブームがここ何年かきていて、プレス工場はどこも大忙しで大手優先、まわりの友人たちのバンドのような、1000枚にも満たないアンダーグラウンドレーベルのレコードは後回し、というのもよく聞く話になってきたが、ここで思ったのは、ブームのせいなのか何なのかわからないが、レコードの値段が10年前に来たときと比べてずいぶん上がったなということ。昔アメーバレコードで買い物したときは、1枚15ドルもだしたらなかなか高い買い物をしたなと思うくらいだったが(私の貧乏性のせいかもしれないが)、今や15ドルで買えるレコードなんてあまりなさそうだ。確かに日本で輸入盤のレコードの値段を見てると、1000円台で買えるのはもうなさそう。じゃあレコード蒐集は金持ちの道楽になったのか、というわけでもなさそうで、単にアメリカの物価が上がっているようである。念のため消費者物価指数というのを見てみると、2004年と比べると2015年は25%上がっている(詳細はググってね)。そういえばこっちのタコスもブリトーも1ドルか2ドル上乗せされてるようにも感じた。外食はそもそも高いと感じるようになった、前はそんなことなかったのに。需要過多など、単に物価が上がったで片づけられないかもしれないが、じゃあ一体高くなったレコードは誰が買っているのだろうかと疑問に思う。パンクスは昔みたいに手あたり次第にレコードを買いまくるでもなく、ネットで視聴して吟味しながら、なけなしの金の使い道を考えているのだろうか。
こんな話も聞いた。昨年バカ売れしたアメリカの某パンクバンドのレコードは、バンド自体の話題性やそのサウンドプロダクションがよかったことも相俟って、普段そういうレコードを買うパンクスというよりは、もっと広い層が買ったためにすぐ売り切れたとか。その広い層というのは、金を持ったヒップスターみたいなやつらで、それが「はやりのバンド」を買っただけなのかもしれない。
なにごとも流行り廃りの激しいアメリカでの、いろいろと個々の事情がからんでそうなレコードブーム。長い目で見ればきっとブームで終わるのだろうが、海の向こうだけの出来事というわけでもなさそうだし、先回のジェントリフィケーションのようなニオイがしなくもない。ものごとの浮き沈みを見つめるのは大切だ。日本のレコード事情も含めて、ちょっと気にしておきたい。

本屋についても似たようなことが言えるのかもしれないが、それはまた別のときに。
長くなったのに、そういえば写真が一枚もなくて、すみません。