Special Interest/With Love (“The Passion Of”, Thrilling Living Records, 2020年)
Eriko
ニューオリンズでライブを終えたツアー3日目の朝。晴れていて4月下旬なのに汗ばむくらい暑かった。ドーナツ店で朝食を済ませて〈Domino Sound Record Shack〉というレコードストアへ向かっていると、Special InterestのAlliが犬を連れてのんびり歩いていた。一緒にツアーを回っていたBB Eye/Warm BodiesのOliviaが紹介してくれた。Oliviaが持ち帰りにした朝食を無邪気に食べていたAlliはライブ映像とはギャップがあり、穏やかな人柄がとても印象的だった。
私はアメリカ最南部は人種差別がまだ根強く残っていると認識していたので、行く先々の店の人たちがとても気さくで親切で、またのどかな街の雰囲気にも拍子抜けしてしまって、そのあともカフェに行き、スケボーで楽しむ友だちを眺めながらのんびり過ごした。そんな中、次のハッティズバーグへ向かう車の中、運転していたLumpy Records/BB EyeのMartinが、前を走る車に“White Power”のステッカーが貼ってあると教えてくれた。歌ったりしてひたすら賑やかだった車内の、みんなの顔が曇り、静かになっていった。南軍旗を軒先に掲げる民家もある。さらには大きなホテルにも南軍旗は力強くはためいていた。
日本に帰り手にしたSpecial InterestのLPの歌詞には、のんびり歩いていた穏やかなAlliの日常はほんの断片に過ぎないということが書かれていた。
仕事が見つからない
お金がない
あなたは普通の女の子でWASP〔アングロ・サクソン系白人プロテスタント教徒。アメリカ社会において主流の白人〕っぽいし
あなたは私を面白がって見る
私は踊るためにここに来た
私は踊るためにここに来たんだ――
“Disco”(『Spiraling』LP, Raw Sugar Records, 2018年)
あなたの母はどう思うだろうか
彼女の母は彼女に何をするように言ったのか
まるで私たちがここに連れてこられなかったかのように
糞の船に詰め込まれた
舌の根も乾かぬうちにすべて偶像化され非人間化された
――私に聖書の首つりベルトがかかっている
操作
剥奪
大量監禁――
“The State, the Industry, the Community & Her Lover”(同)
インダストリアルやディスコを彷彿とさせるノイジーなプログラミング・シンセドラム、地を這うような振動伝うどっしり歪んだベース、高く響く嵐のようなギターの中で、圧倒的な存在感のAlliの力強いボーカル。ジャズシンガーのニーナ・シモンの曲からインスパイアされたであろう歌詞の曲もあり、ハードコア・パンク、No Waveを基盤に、ジャズやゴスペルなどのルーツも強く感じさせる。Alli の言う「運命」に向き合いながらも、悲壮感をかき消すユーモアや強さを兼ね備えている彼女・彼らの楽曲を何度も聴き込んでいるうちに、私はすっかり魅了されてしまった。
そして自分たちのUSツアーから1年後の2020年5月25日、ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官に暴行を加えられ死亡する事件が起こった。頭ではずっと分かっていた問題だったけれども、その時なぜか今まで以上にリアルで強いショックを受けたのを覚えている。その事件を発端にBlack Lives Matterデモが再び広がっていった。Special Interestは2020年6月19日(Juneteenth ジュンティーンス:アフリカから連れてこられた奴隷の人が自由になった日)に2枚目のアルバム『The Passion Of』の音源をカンザスシティのThrilling Living から発表した。そのアルバムに入っているAlliが書いた“With Love”の歌詞をここにすべて載せる。
急速に崩壊する社会の甘い腐敗の匂いを嗅ぐ
糞みたいな日
いつも私のものを奪っていく
“立て” “待て”
毎日劣化をナビゲートする
梅毒治療で夜通し眠れない〔タスキギー梅毒実験:40年に渡り黒人に対して非倫理的な梅毒の人体実験が行われた〕
密接にまとわりつくFBI
父たちは檻の中に
厳重な監視の下で
幻想のオアシスで
支配者の時計が時を刻む
腐敗した私たちの果てしない悪臭
無限の官僚体制の援助〔保守派の政治活動団体ALECを連想させる〕
それはいつ止まるのか
私たちは息ができない
窒息しそうな自由という幻想の中で
私たちが属したいこの現実に餌を与える
ブーツを舐めることを強制させられている間
私たちの悪化を長引かせるもののように
孤立の幻想で分け隔てられる
行動についての明確な善し悪しを示す
ああそれは私の内なる貧困の遺産
足かせに縛られる前に魂の怒りを示す
システムは私たちを陰気にした
不安な昏睡状態
処方された精神安定剤
オーバードーズによる救済の夢
私たちの母と父と近親者と同じように
運命は明らか
何度も何度も何度も疑いに悩まされるサイクル
あなたの不審な意図を常に意識する
悲しみの中に通る光のきらめき
海の最も深い場所のような
私たちに加わって
私たちの舌の血がこの法令を絞り取るように
透明なベールが見える
彼らがあなたと一緒に立ち向かう精神は
私たちの情熱を掻き立てる
明日の為に人々はすべてを取る
私たちが唱える場所
敵は呪われたものたち
核家族を罵る
血を超えて私たちは戦う
解放に向けて
大きな檻から何百万人もの人々を解放するために
主体性と誠実さをもって生きるために
自律性の喜び
街中の素敵なダンス
奉仕以上の人生を経験する目的と
私たちが見てきた予言の為に
私たちの憎しみからの愛を明らかにするために
永遠の愛を痛みに変えて
そしてこのレザージャケットが私たちの防具になるように
私たちの思いは心を尖らせる
常に立ち上がる人々のために
人々はずっと生き残る
私たちは倒錯を楽しむ
滅亡の中で再び地球を感じる
日の劣化に対抗して
支配者の時計は消えた
沈んだ心はこう言うのを知っている
鎖以外に失うものは何もない
アシェ〔アフリカの言葉で「精神的エネルギー」の意〕
私たちは地球の再生を呼び起こす為に
私たちが再び地球に生きる為に
再び
今私の喜びの中にあなたを抱き込める
無限の愛の至福の中で
「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より