Unhinged/Violence
(“Win Our Freedom In Fire”, Nabate, 1996年)
鈴木智士
Hiatusのメンバーも含むベルギーのUnhingedは、ユーロ・クラストにメロディを持ち込むことで後続のバンドに大きな「音楽的」影響を与えたバンドのひとつだ。1996年リリースの1stアルバムの最後に入っているこの曲では、「暴力は社会のシステムが生み出すもの」として、神や宗教、そして金(マネー)もその「暴力」を肯定する理由であることが歌われている。こういった、ある意味では当たり前とも言えるUnhingedのアナキスト的視点の歌詞や姿勢も関係するのだろうが、このレコードには政治囚をサポートする「アナキスト・ブラック・クロス」のフライヤーが入っていた(ベルギーではなくイギリスの組織のものだが)。
囚人支援やベイル・ファンド(保釈基金)は今年再燃したBlack Lives Matter運動でまた注目を浴びることになったが、そもそもアメリカにおける監獄制度とは、黒人や有色人種の高い収監率、貧困層には払う余裕のない保釈金、周縁化され異常者扱いされ性的陵辱を受ける女性「犯罪者」など、明確なレイシズムや男性支配、階級差別の上に成り立っているものであり、さらにそこにグローバル資本主義ががっぷりと絡み、囚人を奴隷のように使って利益を上げる「産獄複合体」となっている問題が存在する(詳しくは『監獄ビジネス』アンジェラ・デイヴィス(岩波書店)を参照。またNetflix製作のドキュメンタリー映画『13th 憲法修正第13条』(エバ・デュバーネイ監督、2016年)も非常に参考になる。アンジェラ・デイヴィスも出演している)。
ちなみに日本の状況を見れば、被疑者の身柄を警察署に最大23日間勾留できる悪しき「代用監獄」があるし(しかもその間に別件逮捕を繰り返せば事実上無限に勾留可能)、メディアはと言えば、「容疑者」という言葉をごく当たり前に用いて、刑が確定してもいないのに「容疑者」段階で即「犯罪者」扱いするという、推定無罪の原則など完全無視のひどい状況が続いている。こういった「犯罪者」のレッテル貼りこそが、今でもこの国で死刑制度を支持する人が驚くほど多い理由でもあるだろう。あなたはその「犯罪者」の何を知っているというのか。
話がやや脱線したが、このように「運動」のフライヤーがレコードに入っていることはかつてよくあった。今でも中古盤にそのまま入っていることもある。スリーブの中にはビラやチラシ程度なら何枚も入るし、レコードという物それ自体がメッセージを直接的に運ぶ役割を果たしていた。
バンドの話に戻ろう。Unhingedはヴォーカルが女性だということも関係しているのだろうが(1stアルバムと2ndの間にヴォーカルは交代しているが、どちらも女性だ。ちなみにこの2000年まで続いたレーベル、インフォショップのNabateを80年代に始めたのは、初代ヴォーカルのManuとギターのAlainらしい。Unhingedの音源も含むNabateのリリースはhttp://nabate.blogspot.com/にまとまっている)、93年のデモテープの最後の曲、“Straight Blow”では、女性より身体的に「強い」とされる男性に対しては、「襲われたら先手を撃つことでそういった男を倒せ。まず鼻や喉を狙い、そこで腹が見えたら腹を思いっきりパンチして、そいつが倒れたら股間を膝蹴りだ。攻撃してくる男は女性からやり返されることを想定していない」というストレートなメッセージとその手順が語られる。ここで語られることを、字句通りの「暴力」と考えてはいけない。被抑圧者による抑圧者への暴力は、「暴力」ではなく「抵抗」だ。「暴力」は「社会のシステムが生み出すもの」であり、常に強大なものから弱いものへとふるわれる一方的なものだ。
「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より