
いわゆる「キャルソック」(猫による自宅警備員的行為)をグレ多もやるのだが、グレ多は二階の廊下の窓から、家の前を流れる小川の向こう側の道路や藪をいつも見ている。そちら側は日が入らず、朝はかなり冷える場所だが、グレ多は古民家の寒さなど気にすることなく、そこから外を見て過ごすことが多い。
そのグレ多が監視している、川の向こう側の道にときどき現れる、白黒の野良猫がいる。この猫は私がこの地に戻ってきた3年ほど前からよく見かける。グレ多はニャルソックの最中にその猫――どこにも入らずさまよっているのをよく見るので、仮にKと名付ける――を見かけると、ブルブルと震え、フンフンと息が荒くなり、いつもは出さない低い唸り声を上げ、外に出られもしないのに、階段を降りて一階の極寒のお勝手に行ったり、また戻ってきてキャルソックを続けたりと、慌ただしくなる。
グレ多がおそらくかつてはどこかの飼い猫だったであろうことは以前に書いたが、どういうわけか野良猫になり、最低でも1ヶ月は野良猫としてこのあたりで過ごしたようだ(去年の春ごろにグレ多に似た模様の猫を見たこともあったので、実はもっと長く、4ヶ月間ほど野良だった可能性もある)。そして7月、助けを求めてうちに入り込んだ。このあたりは野良猫が多く、またド田舎なので、餌場(餌をくれる家や、虫を捕まえる田畑など)はそれぞれ離れているため、野良の行動範囲も広い。私が把握しているだけで、だいたい4、5匹の野良猫が跋扈しているが、グレ多はおそらく、新参野良としてこの地に舞い降り、その古参野良たちの縄張りを侵害し、虐められ、ケガを負ったのだと勝手に想像している。そしてグレ多を虐めた張本人が、先のKなのではないか…。AIによれば、猫も過去に虐められた経験をトラウマとして認知することがあるらしい。だからグレ多は常にKの居所を確認しておきたいために、また今は自分の縄張りであるこの家にKが近づかないために(まあ近づいてきても何もできないんだけど)、日々ニャルソックに勤しんでいるのだ。
そんな中、先日天気のよい日に、苦手なハーネスをつけてグレ多を散歩に連れ出した。自分からはまず外に出ることのないグレ多だが、たまには外を歩くのもいいだろうと思ってのことだ(これまで数回やったことがある)。でもこの日はいつもと様子が違い、だんだんと不機嫌になり、抱きかかえようとすると猛烈に怒ってシャーまでしてくる。今までシャーされたのは、はじめてうちに来たときと、いつだったか病院に行くためにキャリーに入れたときの2回だけだったが、この日だけで4シャーは食らってしまった、悲しい。もう散歩は諦め、不機嫌なグレ多を引っ張って家に戻ろうとしたが、グレ多は小川のほうに近づいていく。そして小川の向こうに向かってウーとうめき声を上げ、ブルブルと震え出す。もしかしてKがいるのかと目をこらしたが、私には何も見えない。グレ多は数メートル先の藪の中からKのにおいを感じたのだろうか。完全に怒りモードになってしまったグレ多。先の手術のときもここまでは怒っていなかった。抱いて家に戻ることもできず、リードを引っ張ってなかば引きずるように、なんとか家に入った。家の中でハーネスを外せば、先の激怒グレ多はもうそこにはおらず、いつものように、ご飯をくれのニャーを言うグレ多がいるだけだった。
(2025/12/3)

