Body Pressure/Reject【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

Body Pressure/Reject
(“Demo”, 自主, 2015 年)
Eriko

 Body Pressureはテキサス州オースティンのハードコア・パンクバンド。ヴォーカルのFaiza はグラインドコアバンドのHatred Surgeを脱退し、その後Mindlessに加入したが、白人男性ばかりのメンバーの中でバンドをする事にうんざりし、Body Pressureでベースを弾くことになるMelissaと一緒にバンドをしようと企てる。そして、脱退した両バンドのメンバーであったギターのBryanと、ブリトーショップで一緒に働いていたTommyがドラムに加わりBody Pressureは結成された。2015年10月に『Demo』をセルフリリースし、初ライブではG.L.O.S.S.と共演した。サウンドはFaizaの以前のバンドとは異なるハードコア・パンクであり、どこか歌詞の内容に反して開放的な痛快さが加わり、頼もしさも感じる。Maximum RocknrollによるFaizaへのインタビューによれば、「自分たちは目的のあるハードコア」だという。女性であること、有色人種であること、そして有色人種の女性であるということ、それらすべての偏見を訴える為、そしてアラブ系移民という理由でよく殴られていたという父と、母国語を話す為に学校で叩かれていたという母のことや、肌や文化のせいで一生クズ扱いされるということを歌っているという。

私はそのように生きられない
体の外側をロックする
地獄に閉じ込められた
痛みに対する免疫
差異が私に対抗してくる
私は息ができない
私は息ができない
私は本当に息ができない
生きさせてくれ
選ばせてくれ
生きさせてくれ
息をさせてくれ
私の人生を生きさせてくれ
私の体を
私の心を
“Body Pressure”

拒否、拒否
社会からの拒否
まじで助けて
何かを感させるための圧力
押さえつけられ、従属させられる
家父長制下の女性
私は打ち勝つ
あなたのぶっ壊れたイデオロギーで私を啓蒙しエンパワーしてくる
あなたの欲望を満たせなかったら傷つけられる
組織的なディックス(複数の男性器)は私の喉を乱暴に突いた
“Reject”

 2001年からポートランドで始まり世界に広がったGirls Rock Camp(8歳から18歳までの女の子たちに楽器を教え、バンドを結成し、曲を作り、大勢の人たちの前で演奏する機会を与えることで、自尊心と相互支援を促す目的で行われているキャンプ)が今も存在し続けるように、世界的に見てもバンドのシーンは圧倒的に男性の方が多い。普段私は女性であるが故に不快感を覚える事があっても、言語化する努力やフェミニズムを意識することはほとんどないが、この歌詞を見ると心の底から共感し、自分の内に眠る実体験からくる憎悪が噴き出し、叫びだしたくなる衝動に駆られるのだ。何かに打ち込むと男性の中で女性一人の環境になる事も多く、些細な会話の中でなんとも言い難い疎外感も付き纏い、私もFaizaと似たような理由でバンドを脱退した経験もある(現在のバンドも男性に囲まれた同じ環境だが、メンバーの人柄のせいか、それらから解放され心から楽しくやっている)。それに加えFaizaは、自身の両親がアラブ系移民だったことによる「生きづらさ」も抱える。2001年9月11日に同時多発テロ事件が起こり、メディアではアラブ系アメリカ人への差別的な報道も増し、FBIによる住民の検挙も多数起こった。1909年にジョージア州でアラブ系移民への市民権付与に抗議する裁判も行われたように、アラブ系移民はアメリカにおいても常に差別に晒されてきた根深い歴史がある。日本に暮らしていると、こういった問題は市民メディアや文献等を通じてでしか知ることはできず、遠い出来事のように思えるかもしれない(日本でも入国管理局による移民に対しての非人道的な行いが繰り返されているが、報道もなく注目されず中々明るみにならない)。しかし、このような自身が実際に置かれている状況を訴えるハードコア・パンク等のネットワークは全世界に広がっており、オーガナイザーやバンドの努力によって、日本でもそういったバンドが絶え間なく来日し、密接に交流でき身近に感じることができる。それはとても重要な事だと思う。それと同時に、このネットワークがジェンダーに対しても同じくらいの熱量で問題を常に共有できるツールとしての機能を果たすことを切望するとともに、自分も取り組んでいきたいと強く思った。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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