Living World/Ubuntu (for George and others)【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

Living World/Ubuntu (for George and others)
(“Ubuntu”, 自主, 2020 年)
Eriko


 Living Worldはペンシルベニア州ピッツバーグの3ピースのハードコア・パンクバンドという事以外、特に情報がない。YouTubeでも誰かが上げた音源のものがあるだけで、ライブ映像はどこにもない。過去作の5曲入りの『DEMO #1』、10曲入りの
『Future Built for Self』はすべてBandcampのデジタル音源のセルフリリースのみ。しかしこれが全曲本当に格好良い。疾走した後に急にスラムパートになるなど目まぐるしく展開していく曲のセンスがたまらない。歌詞も強いメッセージが込められている。この活動スタイルはいったいどういう事なのだろうか。しかもメンバー1人が自撮りで写したであろう3人の粗末なアー写しかない。周りに誰か撮ってくれる人はいなかったのか…。しかし何故だかその3人のスタイルに親近感が湧く。Bandcampで全曲の歌詞を見ることができ、今作“Ubuntu”の歌詞の中では「私は貧しい黒人の男」と表している箇所もある。
 そんなLiving Worldだが、ジョージ・フロイドさんが警察の暴行により殺害された事件の10日後の2020年6月4日に、“Ubuntu”をBandcampにてセルフリリースし、1か月で710ドルを売り上げ、すべてブキット保釈基金(注1)、SisTers PGH〔ピッツバーグの黒人トランスジェンダー主導の活動団体〕とG.L.I.T.S.〔トランスジェンダーや同性愛者の支援団体(フィラデルフィア支部)〕に寄付をした。その曲中にはジョージ・フロイドさんと過去に人種差別の犠牲となった2人の
名前が出てくる。

ジョージ・フロイドは生きていた
アマドは走っていた(注2)
トレイボンは反撃していた(注3)
(中略)
警察はジム・クロウ〔主に黒人の一般公共施設の利用を禁止制限した法律の総称〕の下で/
世界がゆっくり燃えるのを眺め
彼らは知らないように振舞っている
(中略)
彼は息ができなかった
私たちは何かできる
私たちは何もできない
青い盾は殺人〔青は警察を表す〕
青い線は腐敗
もううんざりだ
何かしないと
死んだほうがましか
何もしないのはクソだろう
“Ubuntu”
〔Ubuntuはアフリカの言葉で「他者への思いやり」の意〕

注1: 2015 年に刑務所内で不当な扱いにより亡くなったフランク・ブキット・スマートJr.さんの母親が中心となり設立したピッツバーグの支援団体。アルゲニー郡刑務所に収容されている人々の保釈金や保釈後の生活の支援に力を入れ、すべての刑務所の廃止を求めている。
注2: 2020年2月23日、ランニングをしていたアマド・オーブリーさんは不審者と疑われ、白人の親子によって射殺された。
注3: 2012 年2月26日、高校生だったトレイボン・マーティンさんは自警団によって射殺された。射殺した側は正当防衛として不起訴となりすぐに釈放された。BLM運動の発端となった事件。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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