Sore Throat/(D.R.I) Dead Rich Individuals
(“Unhindered By Talent”, Meantime Records, 1988年)
黒杉研而
先日イギリスのPrivate Scandal Productionsから突如、Sore Throatの未発表音源がリリースされたのが記憶に新しい。当時、ボーカルのRich Walkerの部屋で酔った勢いで録音されたもの、というレーベルの触れ込みを期待して手に取った人も多いだろう。評価は分かれそうだが、当方はその変わらぬ「食わせ物」感に一抹の安堵すら覚えた。それはさておき、そんなキワモノイメージのSore Throatは一体どんな事を歌ってるのか…、その内容は意外にも真面目だ。Saw Throatで打ち出された強烈なグリーンアナキズムのメッセージと照らし合わせれば、単に奇を衒ったり逆張りしているわけではない事は容易に分かる。
アルコール、反SxE、反核、反権威主義など多岐に渡るが、まず資本主義経済への嫌悪が基底にあるように思える。また、そうした社会の中で、時にパンクシーンにも及ぶ諸問題(商業主義、セルアウト、リップオフ、etc.…)等を簡潔にこき下ろすプロパガンダ・ソングが多い。“Rapist Die”なんて直球の曲もある。その批判は集団としてのシーンのみならず個々のバンドにも向けられる。S.O.D.やそのボーカルBilly Milano、DRI、Old Lady Drivers、Suicidal Tendencies等、主に米国のCrossoverやGrind系のバンドが執拗にこき下ろされているが、中には身内とさえ言えそうなバンド(Deviated Instinct等)を含め、そのリフさえ拝借してネタにされているのだから、聴いてるこちらも肝を冷やす。26曲目の“In Their Hypocrisy, They’ll Probably Sue Us”に到っては、Active Mindsの“Will They Ever Learn”をそのまま垂れ流しながら自前のポエトリー・リーディングを乗せるという、ある種の徹底ぶりだ。
Billy Milanoに関しては、このLPでは数曲に渡って曲名に冠されるほどターゲットにされているが、彼は実際に“Speak English Or Die”でアメリカの国家的な立場に擦り寄った上での中東諸国への差別的な眼差しを開陳しているのだから、異論を挟む余地はなさそうだ。自身のバンドのメンバーにさえそうなのだから、もはや筋金入りと言える(S.O.D.のギタリストであるScott Ianはユダヤ系にルーツを持つ)。とある曲の歌詞を変えて、“Kill The Peace Punk”と揶揄したと言うBilly Milanoの逸話もある。DRI に関しては事情は若干異なる。彼らに関しては人種差別的な発言をした等といった情報はないどころか、彼らにもユダヤ系のメンバーが居て、その立場から反ファシズムを歌った曲もある。ただ、87年のオーストラリアでのライブでオーディエンスに大勢のナチ・スキンヘッドが居た事や、それに纏わるエピソードが一部で物議を醸したようだ。
後に複数のインタビューでこの出来事について振り返っているボーカルのKurt Brechtは、スキンヘッド達を追い出したオーディエンスにむしろ賛辞を示している。Sore ThroatやElectro HippiesがDRIをネタにしたのは、レイシズムに纏わる事ではなく、彼らが2nd LP『Dealing With It』でDeath Recordsと契約した事に関係しているのではないか。というのも、このレーベルはMetallicaやSlayerを輩出した事で著名な、Thrash Metalのファンなら誰もが知るMetal Blade Recordsのサブレーベルだ。当時のイギリスのハードコアパンク勢からしたら、同レーベルとの契約は、明確にセルアウトと映ったとしても不思議ではない。
当時のクラスティーズは“Capitalist Suck”とか“Money Stinks”, “War Crimes”といった曲を書いた初期のDRIを好んで聴いていた可能性はある。だがDRIとその周縁的なバンド、そしていわゆるベイエリア・スラッシュ勢も含めて、その多くはDIY的な位置から出発したはずが、メタリカを始め多くのバンドが商業主義のマーケットに飲まれてしまった。追体験としてそうした文脈を共有する私たちがそれをどう捉えるかはさておき、彼らはそう感じたのだろう。「もしDRIがウチらの町にギグしにきたら、あいつらハコに閉じ込めて火ぃ点けてやりたいわ」 たったこれだけの歌詞から正確な事実を紐解く事は出来ない。だが点在する過去の断片を繋ぎ合わせて最大限好意的に解釈すると、やはり敬意を抱いていたが故の失意や反動、というのが辻褄が合うような気がする。
「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より