【実用編】イスラエル入国、出国(2012年版)

(2012/10/29 旧ブログより)

先に書いたように、表立った宗教意識が希薄な日本人にとってイスラエルは特に興味深い土地である。ただイスラエルを取り巻く環境のせいで、入国、出国共に非常に厳重なチェックをされることがしばしばある。ネットで検索すれば様々な人の体験談が見つかるが、ここで私も今後イスラエルに行かれる方の参考になるように、実用編として私の入出国体験を載せておこうと思う。
ただ一般的にバックパッカーはヨルダンから陸路で入ることが多いみたいで、私の場合は空路、しかもパリからだったのであまり参考にはならないかもしれない。この点は先に断っておく。

【入国】
今回使った飛行機はフランスの航空会社エール・メディテラネ(Air Méditerranée)。パリのシャルル・ド・ゴール国際空港第3ターミナルより、イスラエルはテルアビブ近郊のベン・グリオン国際空港へ直行便が出ている。5時間弱のフライト。
フランス出国のセキュリティチェックは特に他の国の場合と変わったことはなかったが、チェックインした際に私だけ預け荷物を別のカウンターに持っていくよう指示された。人ひとりいないはずれのカウンターで待っていたら担当のおじさんがやってきて、ベルトコンベアで預け荷物を流して終わり。理由はわからない。
一人旅の者にはよくあることだが、チェックイン時にイスラエル出国のチケットを持っているかを聞かれた。
フランス出国のパスポートコントロールは至って簡単で、シェンゲン国を往来した私のパスポートをくまなく見ることもなく判子を押してくれた。フランスはこの辺が非常に軽い。
フライト。周りはユダヤ人と思しき人ばかりである。

深夜発のフライトは早朝にイスラエルに到着。飛行機を降りて空港のエスカレーターを上る最中に、空港の管理官のような若いイスラエル人女性と目が合い呼び止められてまず尋問された。これが噂の抜き打ち尋問か、と思いながら答える。質問はざっと以下の通り。
・イスラエルに何しに来た?
・どれだけいるつもりか?
・休暇で来ているのか?
・仕事は?(私の場合無職だったので、前職は?)
・イスラエル来る前はどこにいた? (→A.パリに)
・パリで何をしていた? どこに泊まっていた?
・で、イスラエルにはどれだけいるのか?(先と同じ質問の反復)
思っていたより簡単なもので、以上を答えたらありがとうと解放してくれた。ネットで見つけたものでは、これが数人続く、というのもあったので同じことを言うのは面倒だなと思いながらも進んで行ったところ、パスポートチェックまで特に呼び止められることもなく到着。
パスポート係も若い女性で、以下のことを聞かれた。
・何日いるつもりか?
・どこに泊まるのか? (ホステルの予約票を見せる)
・何をするつもりか?
(友人に会う、と答えたところ、友人の名前は?とだけ聞かれ、名前だけ伝えそれで終わった)
以上で、パスポートに入国スタンプを押してくれ、別で1枚紙をもらい終了。
ちなみにこれも有名な話らしいが、周辺のアラブ諸国(イスラエルと友好関係がない国)へ行く予定がある場合はパスポートにイスラエル入国のスタンプがあるとそれらの国への入国ができないそうなので、「スタンプなしでお願いします」と伝える必要があるとのこと。今回の私の場合は今のパスポートでは特に予定もなかったので記念に押してもらった。
入国は特段厳しいという印象も感じなかったが、これがパスポートにイスラム国のスタンプがあるとまた対応も変わってくるらしいので何とも言えない。審査官の質問は正直イギリス入国時の方がしつこく厳しかった気もする。まあ要は怪しまれないようにハキハキと答えることが大切なのかと。

【出国】
さて、出国は入国よりも厳しいと聞いていたのでかなり用心していた。○にAと書いてあるような反政府的に見えるグッズ類(笑)はあらかじめ日本へ送っておいた。粉類に異様な反応を示すと見かけたのでギリシャからずっと持っていた食塩も同封した。パレスチナ関係のものも危なそうだなと思ったが、ベツレヘムでもらったパレスチナの自由を求める観光ガイドなどはどう対応されるか興味もあったので、あえてそのままカバンに入れておいた。
ベン・グリオン空港への到着はフライトの3時間前というのを空港自体が推奨している。早めに着いて担当に聞いたところ、チェックインカウンターが開くのが3時間前から、その前の荷物チェックは3時間半前からというのが通常のルールらしい。なのであまり早めに行き過ぎてもベンチで座るかコーヒーでも飲んで時間を潰すしかない。物価は高い。

(1) 最初の口頭質問タイム~X線検査
チェックはまず、チェックインのゲート(A,B,Cだったと思ったが)に並んでいると、管理官が一人ずつパスポートを取り上げ質問をしていく。こちらは立ったままで答えることになる。
・イスラエルへは何をしに来た?
・友達の名前は? 下の名前は?
・どこに住んでいた?
・その友達の友達には誰か会ったか? (→奥さんに会った)
・奥さんの名前は? (→○○)
・それ以外は? (→その家族に会った)
・家族の名前を誰でもいいので覚えていないか? (→○○)
・イスラエルに来たのは初めて?
・この空港のセキュリティー上、色々聞いています。荷物は全部自分のもの?
・どこで誰がパッキングした?
・この中に誰かからもらったものは入っていないか? 全部自分のもの?
・ナイフとかは持っていないか?
・手荷物に液体は入っていないか?

以上を順番に答えた。こちらの答えに突っ込んでくることも屡々あったが、全部で10分もかからなかったと思う。途中他の担当に私のパスポートを見せたりしていたが、ヘブライ語なので何を言っているかはわからず。
おそらくここでの返答が怪しかったり敵対国のスタンプがあったり英語がままならないと別室送りにされ、さらなる「取調べ」を受けるのではないだろうか。
その後は預け荷物を巨大なX線機械に通す。前に並んでいた人たちはそのまま荷物を受け取りチェックインカウンターへ進んで行ったが、私は「あっちに行って待ってて」と言われた。指された先では白人の女性が不安そうな顔でスーツケースを全開にさせられている。

(2) 預け荷物解体~検査
ここでは男の担当員から預け荷物をすべて開けるよう求められ、小型クイックルワイパーのようなものであらゆる荷物を触られる。書類や本などは中身を見られるようなことはなかったが、「電子機器はないか? バッテリーとか充電器とか何でもいいので電子機器があればすべて出してくれ」と、電子機器についてはかなり敏感であった。10分ほどしてすべて触ったところで、「ありがとう。もうしまっていいよ。」と言ってくるので、とりあえずパッキングを一からやり直す。途中で「手伝おうか?」と言ってくるのが憎い。
パッキングし終わると、担当が代わって女性が「フライトは何時ですか? 1時間後にまたここに荷物を取りに来て下さい。大丈夫です。チェックインの列が並んでいても、私があなたについていくので優先的にチェックインできます。私がいなかったら他の誰かがついていくので心配しないで下さい。」と言う。これで終わったのかなとやや安堵しながらも、いや、これからあの荷物が隈なく検査されるんだろうと思い、適当に時間を潰す。西ヨーロッパの空港は有料だったり時間制限あったりとWIFIがあまり繋がらなかったが、ベン・グリオン空港は無料で使えるのがありがたい。

(3) チェックイン(別ルート)、預け荷物を別ルートへ
1時間後、荷物を取りに行く。ちょっと不機嫌そうな見た目の女性の担当員に話しかけたら、私についてきて、とやや冷たい感じで言われるのでついていく。荷物を受け取って、かなり人が並んでいるチェックインカウンターをすっ飛ばして、ビジネスクラスの横へ直行し、並んでいた人の前に割り込ませてもらう。まるで優待を受けているようだ。まだその女性が傍らで監視している中チェックインを済ましチケットを受け取ると、彼女は「カバンを持ってついてきて」と言いチェックインの人波を無理矢理分けて奥にあったエレベーターへ向かった。まだ何かあるのかとドキドキしながら「ここにカバンを置いて」と命令に従い置いたところ、「出国はあっちよ」とだけ言い残して去っていった。これで終わったのだろうか。

(4) 手荷物検査(別ルート)
彼女の最後の命令に従い出国前の手荷物検査に並んでいたら、私のチケットを読み取り機に通して「君はあっちだ」とまた別の列へ行くよう言われる。指定された検査場に人はいない。
またここでもカバンの中身をすべて出すよう言われ、指示通りにすべて取り出す。出されたものは先ほどと同じようにクイックルワイパー小型版ですべて触られる。ノートパソコンも開封され、キーボードまでくまなくタッチ。タッチしたクイックルワイパーの行方を見ていると、その布織を検査機のようなものでチェックしている。なるほど、荷物すべてに付着した何かを調べているわけである。爆発しそうな化学物質を探し出しているのだろうか。ここの検査官のおばさんは至って事務的に仕事をこなし、検査がすべて終わってシロが判明したら特にどうというわけでもなく「荷物を片付けていいわよ。手伝おうか?」と言った。
持ち込みのリュックに荷物を片付けながら、これで残すはパスポートチェック、出国審査だけである。

(5) パスポートチェック、出国
ここまで終わっていれば特に心配することもなく、シラっと割り込んでくる中国人観光客に文句を言いながら列に並ぶ。スタンプ係はまた若い女性である。私の前の中国人に問題があったのか、恐らくそのことについて電話をしながら私のパスポートはパラパラと捲っただけで、入国のスタンプの隣にポンと出国スタンプを押してくれた。先述の理由でスタンプを押されて困る旅行者はここでもスタンプを押さないでと言う必要があるのだろう。

結果、離陸の時間まで2時間以上を残してすべての手続きが終了した。ベン・グリオン空港の免税店はかなり大きいのでここでお土産を購入。CDやDVDも売っていた。イスラエル特産のHalvaというゴマのお菓子を、多弁なレジのお姉ちゃんがその「L」の発音練習と共に勧めてきたので購入した。

つまるところ、前述のように(1)でまずその人の人となりや会話能力、渡航歴などを詳しくチェックし、そこからはただひたすら荷物の中に何か危険な粉や物体が付着していないか、知らない間に何か持たされていないかのチェックで、それに膨大な時間と労力をかけているわけである。その人が思想的にどうであろうがそんなことよりも、まずは爆発物の類を持っていないかを念入り過ぎるほど念入りにチェックする(ただパレスチナ人権活動家が入国拒否のスタンプを押された、という例もネット上で見たことがあるので、誠に理不尽ではあるがそういった「取り締まり」も行っているのは事実かと)。ネットで見ていたら恐らく(1)の段階で別室に連れて行かれて裸同然にされ身体検査を受けたとか、もっといやらしい詰問を長々受けたとか、離陸ギリギリまで時間をかけられたとか書いてあったのを読んだが、私観ではあるが、恐らくそれは
・敵対国(アラブ諸国)への渡航スタンプがある
・英会話が十分にできない
・何か怪しい(見た目、会話の内容等)
のどれかが引っかかると起こるように思う。
何だか単に旅行者への嫌がらせのようにも思えるし、それはまるでイスラエルという国家がパレスチナに対してずっとやっていることの延長線上にあるようにも思える。日本人に対しては過去の禍根から、新たな赤軍兵士○○登場へのいぶかしみもあるのかもしれない。しかしながら特にエルサレムはとても興味深い街であることは間違いないし、パレスチナに入ろうにもここを経由する必要もあるだろう、イスラエルの若い係官に様々なことを時に高圧的に聞かれて癪に障るかもしれない、しかしこんなところでしくじっていては元も子もないので、入出国対策は少しの忍耐と共に万全な状態で行かれることをお勧めする。