猫が来た

ある日うちにやって来た野良猫と暮らし始めて二ヶ月近く経った。猫一匹いるだけで毎日がこんなに楽しいなんて考えもしなかった。

いつもはとてもおとなしい猫で、初めからトイレで用を足し、今まで一度も粗相をしたことがない。おそらく以前はどこかの家で飼われていたのだろう。それが脱走したのか、あるいは捨てられたのか。確認したところ、近所の飼い猫ではないようだった。六月ごろ、一度この猫が車庫で鳴いていたことがあり、そのときは餌をあげたらさっさと平らげて逃げていった。その後も野良生活を続けていたのだろう。そしてまたうちにやって来たというわけだ。

灰色の猫なので「グレ多」と名付けた。グレタは西洋では女性の名前だ。でもこの猫はオスなので、「タ」だけ漢字にした。嘉村礒多、というよりも、北町貫多から拝借したのかもしれない。猫とはいえ、もちろんあんな男になってはいけない。動物病院で去勢してもらった。そのときは地域猫にするのか決めかねていたので、耳もカットしてもらった。が、グレ多は家に入ってきた。

猫は欲のみで生きているのだろうか。食べたいものを食べたいときに食べ、眠りたいときに眠る。食べたいものはコロコロ変わり、こちらは好みに合わせてあれこれと餌を買いに、近くのゲンキーやドラッグストアに車を走らせる。差し出してもまったく見向きもしない餌もある。気難しい。ピッキーすぎる。好きな餌だと、食べたあとでもさらによこせと鳴いている。そうそう餌ばかり食わせるわけにもいかない。グレ多の好みに合わず余ってしまった餌は、外に置いておくと野良狸がきれいに食べる。狸も腹が減るが、こちらに偏食はない。羨ましい。

かまってほしいときにはパソコンやゲラの上に平気で乗り、我を撫でよ、と威圧してくる。猫を撫でるのは気持ちがいい。ゲラは食い破られても仕方がない。相手は猫だ。でもこちらがかまいたいときには、プイと興味なさそうにどこかに行ってしまう。たまにおもちゃで遊ぼうとしても、まったく無視される。グレ多は猫じゃらしの先についている鼠を模したものよりも、それと棒を結ぶ紐を噛んで舐めるのが好きだ。高価な爪とぎを買っても、せっせとガリガリやって、数日でボロボロにしてしまう。爪を切ろうとすると激しく抵抗する。首輪はさらに嫌いなようだ。そんなときには大好きなまぐろジャーキーをあげると少し上機嫌になる。野良生活の名残なのか、窓や網戸の反対側に引っついている虫やヤモリを追うのが好きだ。真夜中にゴミ箱を漁るのはやめてほしいが、猫だから仕方がない。

グレ多は私の理解が及ばないことをたくさんする。だから今は猫のことをあれこれと話せる猫友達がほしい。他のことはどうでもいい。グレ多についてのみ考えていたい。このままずっと、グレ多と遊んでいたい。

(2025/9/10)