那覇の古本屋(2016年)

(2016/4/11 旧ブログより)

「旅に出たら古本屋を探せ」、というのはいつからか私の旅の鉄則になっているが、インターネットのせいでどこもかしこも古本の価格が画一化されてしまった昨今、この鉄則は、“レア本”との適度な価格での出会いよりも、“ご当地本”との出会いにおいて有効みたいだ。昔(と言っても10数年前の話だが)は地方の古本屋(やレコード屋)に行くと、都会ではもう見つからないようなものにお目にかかり小躍りしたものだが、そういった経験も最近はめっきり少なくなった。まあその頃はバンドでよくツアーに出ていたから経験しただけなのかもしれず、最近ではあまり他の土地へ行くことがなくなったせいなのかもしれないけど。

今回沖縄でも、那覇の数件の古本屋に立ち寄った。他の町にもあったのだろうが、そこまでの時間もなかった。3軒見ただけなのでえらそうなことは言えないが、その感想を書いておこう。
まず気づいたこと。こちらの古本屋にはどこに行っても「琉球、沖縄」のコーナーが必ずあるようで、そこには主にその歴史のあらゆるモーメント、すなわち琉球処分、それ以前の時代の文化、食、もちろん沖縄戦やひめゆり部隊、集団自決から基地問題、沖縄文学など、文字通りあらゆる琉球・沖縄に関する歴史の本や、写真集などさまざまがおいてある。しかも、見たこともない出版社の本が多いのと、町々の歴史を編纂した分厚い本がたくさん出ているのに気づく。以前仕事の出張で青森に行ったことがあったが、その際訪れた古本屋でも似たような棚を見たことを思い出す。そのときは「みちのく艶笑譚」という本を買ったか。つまりこれは、自分たちの文化を自分たちの生活圏で継承していこう、ということなのだろう。もちろん東京の古本屋にも特定の地域に強い、というところもあるだろうけど、店単位というよりは、その土地にあればそうする、というのが自然になされているよう。それはもちろん「お上」の歴史に埋もれないように、自分たちの言葉をつないでいこう、ということを意味しているわけだし、この前の『明治維新という過ち』にも書いてあったけど、私たちが教えられている歴史なんていうのは、結局「勝者の歴史」でしかないことを改めて思う。

さて、那覇で訪れた本屋について。
まずは、那覇市街、国際通りからドンキの角を曲がり、市場本通りに入ってしばらく行った左手にある、こじんまりとしたお店、“市場の古本屋ウララ”。向かって左側の細い部屋には一般の本(最近の市民運動系のが多かったような)、右側の部屋には沖縄に関する本がぎっしりとつまっていた。私は「うちなあのんかしうむかじ」(ひらがな表記で)という沖縄の怪談奇談の本と、「戦後・小説・沖縄 文学が語る『島』の現実」という2冊を購入。相方akは大城立裕『カクテル・パーティー』の文庫本を。かつて日本史の授業で英語で読んだことがあると言っていた。さて、ホームページを見ると、「今月から、ウララの帳場には県内の古本屋・出版社の皆さんが交替で座ってくださっています」と書いてあるので、なんだか古本屋コレクティヴみたいだなあと。ここをたどっていけば、沖縄中の古本屋に行けるのかも知れない。
(写真は撮り忘れました…。)
その通りのあたりをフラフラ歩いていたら、もう1つ古本屋があったが、そこはどうもゲストハウスと古本屋の二足の草鞋みたいで、中のロビーでは家族連れがくつろいでいた。店内はそれほどオーガナイズされているわけでもなかったが、それでも沖縄コーナーは存在した。

沖縄本島に行く前に、身内の結婚式のために宮古島にいたのだが、宮古島に古本屋はないのかと新しいきょうだいに聞いたところ、1つあったそうなのだが、最近本島に引っ越してしまったという。店の名を聞いてググって出てきた情報を元に、レンタカーを返す前に寄ってみたのが、その“麻姑山書房”だ。詳しい情報はこのサイトにだいたい書いてある: 「宮古島から麻姑山書房がやってきた」 Dee Okinawa
住宅街の中にあるが、この写真が駐車場にあるのでわかりやすい。ただ那覇市内の渋滞はひどい…。ひめゆりの塔からここまでたかだか20km程度が、平日の昼間に1時間半くらいかかった…。

ここは文庫本の量が圧倒的で、特にSF系がたくさん。トム・デミジョン『黒いアリス』まで見つけてしまった。沖縄関連の本は、レジの後ろの和室(応接間?)にまたたくさんおいてあり、背の赤い新書サイズの「おきなわ文庫」の本がたくさんあったり、また各地の市史村史のようなのもたくさん。先述のように無知無関心の私はこれだけのなかから何を買っていいかわからず、友人おすすめの本を購入。価格はなんと1冊ずつ店主さんと交渉していくスタイル(笑)。いろいろおまけしてもらってありがとうございました。
先のサイトにも書いてあるが、宮古島の店舗が道路拡張の立ち退きで閉めざるをえなかったために、昨年本島に越してきたそう。まだ在庫の多くは宮古の倉庫にあるそうなので、次行けばまた本が増えているのかもしれない。お店のご夫婦もきさくな方で、あれこれお話ししてさようなら。毎月でも行きたくなるような古本屋です。
いまや大学生の4割がまったく本を読まないとか、町の本屋がのきなみつぶれているとか、本というメディア自体が時代錯誤になりそうな風潮がある昨今だが、アメリカと比べると日本の状況はまだまだマシなようである。アメリカではBarns & Nobleのような大手チェーンがどんどん縮小、新しい本なんて誰も店舗で買わなくなっているらしい。ただその中で、古本屋は売り上げが伸びている、という記事も以前目にした。古本屋は店ごとに特色、専門色を出して、その店ごとのユニークさで勝負しているそうである。でもまあそれって、多くの古本屋には昔から普通にあったことで、あの店は日本文学が強い、あそこは映画の本専門店、この店はなぜかナチ関連本がたくさんある、とかいうのはどこにでもあること。それがだんだんと明確な差異になって、その店ごとにファンをつかんでいっているということなのだろう。でもやはり古本蒐集のたのしみって、珍しい本を安く手に入れることなので(珍しい本をたんに「手に入れる」だけなら、最早ネットでこと足りてしまう)、こうやって旅先でいい本屋にめぐり合うと、ああやっぱりこれはやめられない、と思うわけである。東京なんかは毎週のように古書市があって、まあ掘り出し物なんかもたまにあったりするわけだが、それでもやはり、旅に出たら古本屋を探せ、なのである。その土地の情報も手に入るし、こんないいことはない。