HIRS/Assigned Cop At Birth【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

HIRS/Assigned Cop At Birth
(“Friends. Lovers. Favorites.”, Get Better Records & SRA Records, 2018年)
Eriko

口に銀色の銃をくわえて
お決まりの人種差別や同性愛嫌悪、性差別、好戦的な“パワートリップ〔他人を支配することに喜びを覚え、自己満足のために力をひけらかすこと〕”を持って生まれた
みんな同じ型に生まれた:殺人ファシスト
生まれたときから警察官
ひとりひとり中絶しろ
“Assigned Cop At Birth”

 この歌詞の表現を見て過激だと捉える人もいるだろうか。
 HIRSは単なるバンドではなく「トランス・同性愛者・有色人種・黒人・女性と、常に暴力に直面しなければならないすべての人々、疎外や抑圧の中にいる人々の生存を祝い、守る為に戦うための集団」と表明し、バンド以外にも様々な活動を行っている。
 主にボーカル&ビートのJPとギターのEsemという半匿名の二人を中心に2011年から活動を始め現在も続いている。数秒で終わるグラインドコアを基盤とし、2012年にリリースした“The First 100 Songs” の収録曲数は100曲という物凄い数だが、1曲1曲に強い意味が込められている。今作では感情のままに叫ぶボーカルは変わらないが、歌詞としてはっきりと強いメッセージを発信している。
 自分たちを「集団(Collective)」と呼ぶのは、表現している物事・忌々しい出来事の問題は自分たちだけのものではないということと、自分たちは唯一無二の存在ではないからだと言う。
 希望する人なら誰でも歓迎するとし、今作ではLos CrudosのMartin、G.L.O.S.S.のSadie、Alice Bagなど、マイノリティ、クィア・パンクシーンのミュージシャンも共鳴し参加している。HIRSのプロフィールには「私たちはフリーク・Faggots〔男性の同性愛者への蔑称。問題を可視化する為に当事者が敢えて蔑称を使用することも多い〕・友だち・恋人たちの集まりである。誰も私たちを殺せない。私たちは永遠に生きるつもりだ。」と書かれている。
 2015年の始め、アメリカで7週間のうちに7名のトランスウーマンがホモフォビア思想によって殺害された。その年の5月に発売された『The Second 100 Songs』では、彼女たちがどのように殺害されたかについて歌っているという。現在でもトランスウーマンがリンチなどによって殺害される事件が後を絶たず、宗教による反同性愛などの強い信仰心に囚われて殺人にまで至る人もいる。それは警官も例外ではない。
 2020年のBLM運動が始まった時にトランプがANTIFAをテロリスト認定し、彼らが掲げるACAB(All Cops Are Bastards)を、過激派のスローガンだという人が日本でもいたが、自分が生まれ持ったものを理由にいつ殺されてもおかしくないという状況を一度想像しながら、最初に載せた“Assigned Cop At Birth”の歌詞をもう一度読んでほしい。ここでは「警官」を生まれ持ったものと想定し、同じ状況に置き換え問いかけていることが見えてくる。
 完璧に強い人なんてそうはいない。HIRSの楽曲を聴きながら攻撃的な表現に至り、強くならざるを得なかった人々の存在にも思いを巡らせたい。ここまで中身にしか触れなかったが、楽曲だけでも高揚せざるを得ないくらい最高である。VICEのインタビューでJPが言っていたように1つ1つの楽曲には様々な色がある。怒りと優しさが共存している。

彼らは私たちが病気になると、私たちは弱者だと言う
それは真実からかけ離れている
私たちは生き残っている
寂しくなってもいい
病んでしまってもいい
彼らは私たちが病気になると、私たちは弱者だと言う
彼らは何も知らない
どうか―もしそうできるのなら―1日1日を生きて、自分を大切にして
もし何かが必要なら、私たちに尋ねて」
“It’s Ok To Be Sick”