野良猫はこちら側には来ない

  家の前に幅2メートルくらいの、用水路が大きくなったような小川(と呼ぶのが正確なのかは知らない)があるのだが、かつてはそこに歩いて渡れる肩幅くらいの木橋が架かっていた。小川の向こう側に住むご近所さんとの往来を楽にするために、30年近く前に亡くなった祖父がその昔勝手に架けたものであり、当然地図等には載っていなかった。この木橋を通らなければ、小川沿いに道を下ってぐるっとまわり、反対側の道をまた上らないと、川向こうのご近所さんのところには行けない。今はその木橋ももうない。
  そのせいで、野良猫の鳴き声、叫び声は聞こえるのに、姿はたまにしか見かけない。越冬を成功させた野良猫たちは、私が確認しただけでも、最低でも5匹はいるようだ。でもそのほとんどが川向こうにいるので、見かけたとしても小川を隔ててチラッと見えるくらいだ。一番のご近所さんの家はもう20年近く廃屋となっており、どうやらそこに住み着き、その裏にあるEさんのところでエサをもらっているらしい。その廃屋の敷地をウロウロしているのをたまに見かける。木橋が残っていれば私も野良猫たちとコミュニケーションを取れるのだが、木橋はもうない。
  たまに家猫のようなフワフワした立派な毛並みの濃灰色の半野良(と思われる)が、家の前を涼し気な顔をして通っていくが、この猫は川向こうでは見ることがなく、野良猫の棲み分けはきちんと彼らの間で合意が取られているのかもしれない。昔イギリスのドキュメンタリーのテレビで見たが、猫のテリトリーは数百メートルにも及ぶらしく、木橋さえあれば野良猫たちも小川のこちら側に来られるのに。

(2024/2/25)