旅の記憶 その1



 10年以上前にヨーロッパあたりを半年ほどブラブラしていたときのこと。「旅とは酒を飲むことだ」という心がまえの旅行者が大勢いることに気がついたのは、韓国のインチョンから片道航空券で飛んでイスタンブールのホステルに泊まっていたときだった。このときはインチョン空港でチェックインカウンターの職員から嫌がらせに遭い、「イスタンブールを出国する航空チケットを持っていないから搭乗させられない」と言われ、10分ほどしか残り時間がない中、焦りながら、仕方なく空港併設のネットカフェのパソコンに100ウォン硬貨を何枚か突っ込み、LCCのチケットを適当に買って(アタテュルク‐スタンステッドだったか、150ドルくらいした)、何とか飛行機に乗った。もちろんイスタンブールでそのチケットを確認されることはなく、航空会社に電話したが払い戻しもできず、泣く泣く捨てるしかなかった。

 さて、彼らは西ヨーロッパなどから物価の安い旧東側の国などへ来ては、酒をひたすら飲んで、バーでクラブで夜な夜な騒ぐ。自分の国にいるときよりも安価で酔えるから、とにかく飲む。彼らにとって、これが旅の醍醐味らしい。そういった目的の若い、特にイギリスからの集団をよく見かけた。おそらくそこそこ金のある学生だろう。彼らはただ安く酒が飲みたいだけなので、他のことにはあまり気を使わない。ドミトリーなのにまるで自分の部屋のように散らかし、明け方うるさく帰ってきては、また夜酒を飲んで騒ぐために太陽の出ている間は寝る。私は別に夜遊ぶために旅行していたわけではないので、彼らとは日のリズムが違ったが、それでも時々顔を合わせては、「今から飲みに行くけど来る?」と誘われたこともあった。一度飲みに行ったが、当時30歳でパンク旅行にしか興味がない私が、イギリスの坊っちゃん学生たちと気が合うわけもなく、4つ打ちのリズムに合わせてテキーラをあおって頭を振る彼らのことをぼーっと眺めていた。私はキルジョイであった。

 その後セルビアのベオグラードの暑い夏に沈没していたときも、別のブリティッシュ若者集団に出くわした。誘いに乗ることはもうなかったが(彼らはそれがマナーだと思っているのだろう、決まって同室の単身旅行者に声をかける)、明け方にうるさくドミトリーに帰ってきた彼らの会話を聞いていると、「タクシーに7000ディナールぼったくられた」 「セルビアは最悪だ」 「もう二度と来ない」などとわめいていて、ざまあみろボケと思う。
(続く)

(2024/3/17)