Dagger/This Country Was Never Great
(“Hexes”, Not Normal Tapes, 2018 年)
Eriko
DaggerはThe Coneheads、Liquids、Guinea Kidといった2010年代に“エッグ・パンク”(かつて“Devoコア”と呼ばれた、型にはまらない曲調のバンドの意としてもよく用いられる)として話題を集め、パンクキッズを熱狂させたノースウェスト・インディアナを代表するバンドのメンバーが集まり結成された。2017年に7インチEP『Writhing In The Light Of The Moon』をMartin CrudoのレーベルLengua Armada Discosから発表している。彼らはあまり政治的だと強調して語られることもなく、表明している政治的イメージもないが、歌詞を見ると当たり前にポリティカルであり、ネオ・ナチやKKKの犯罪的な歴史や負の遺産を拒否し続けろ、としながらも、どうしてそんな風になってしまったのかと嘆いている。
ファシストが行進する。私たちはファシストの強大化について話す
奴らはトーチライト・ラリー〔ネオナチがたいまつを持って練り歩く集会〕で集まる
私たちは議論する
なぜ、どのように、どこで、そして「すべてが道を誤ったのはいつなのか」
でも変化などは見たことがない。何も変わらない
殺人、奴隷の伝統、そして虐殺は起こった
奴らは私たちが鎖を受け入れ苦しみ従うことを望むだけだ
カーテンを剥がすこともなく、奴らの歴史の描写に疑問を持つこともない
しかし私は栄光の新時代などいらない
支配の上につくられた優越性/私は憎しみを思い出し
彼らの犯罪の遺産の中に生きる
戦う、探す、そして廃棄する
そこにある希望の断片のために
この国が偉大だったことなど一度もない
レトリックを受け入れるな
奴らの下劣で悪質な遊びを受け入れるな
奴らの犯罪を拒否しろ
奴らの前進を拒否しろ
立ち上がれ、後に引くな
“This Country Was Never Great”
中西部にはシカゴのような大都市もあるが、そこから少し離れると農園や牧草地がひたすら広がり、少数民族社会や農業従事者などの労働者が多いとされ、KKKの本拠地もあるアーカンソー州がすぐ南に隣接する。インディアナ州は奴隷制度の廃止が最も早かった地域のひとつとされるが、2016年の大統領選挙で絶対に勝てないと言われていたドナルド・トランプは、中西部の特に大学教育を受けてこられなかった農村部白人労働者貧困層の支持を多く獲得したことが勝算だとされている。レーベルNot Normal Tapes はDaggerについて、「アメリカのミッドウェスト(中西部)の生活の上で、何世代にもわたる困難な世代を通して育まれた希望」と記している。個人的な話になるが、私は登校拒否気味の時期もあり、学校生活ではまともに勉強などせず、環境が整っていたにも関わらず大人からの教育を拒否し続けてきた。だけどパンクの音楽でいろいろな物事や考え方を知ることができた。貧困や生まれ持ったもの、環境関係なく触れることができる音楽文化の発展は、自分たちの権利を侵害されない社会を築いていく上でも重要な気がしてならない。
「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より