Pg.99/Virginia【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

Pg.99/Virginia (“Document #12” Split with Majority Rule, Magic Bullet Records, 2002年)
A.K.アコスタ


 パンクロックにハマったら、覚えることがたくさんある。まず現行のバンドを、そして同時に「伝説」のバンドを知る必要があるし、パンクの中のジャンルと細かいサブジャンルも覚えないといけない。それにどんな服を着て、どのシーンに属すのかをどう示すのかも学ぶ必要がある。そしてショウでどのようなふるまいをするのかを覚えるのも大切なことだ。私は1990 年代のワシントンDC周辺のショウを見て育ったが、その中で最も重要だったことと言えば、そのショウはモッシュができるかどうかをきちんと知ることだった。DCの最も有名なパンクバンドのFugazi は、その「反モッシュ」姿勢がよく知られていた。Fugaziのショウでは、少しくらいは踊ってもいいけど、場所をたくさん占有したり、隣の人に迷惑をかけてはいけなかった。Fugaziファンはだいたいは頭を動かす程度。でもこれはFugaziのショウに限ったことではなく、DC のほとんどのショウがそうだった。ただDC近郊のパンクシーンはFugazi やDischordのバンドだけというわけではなく、他にも存在した。
 DC の郊外、バージニア州には、1990 年代に大きくなったノイジーなポスト・ハードコアのシーンが存在した。その中でも最も有名なバンドのひとつ、Pg.99 は、DC中心部から車で45分ほど走ったところにある町、スターリングのバンドだった。スターリングは古くは田舎の村といった場所だったが、ダレス国際空港の開港により1960年代に再開発が進んだ。でもスターリングでは、高速道路沿いに数多ある巨大チェーン店に行くか、ミニゴルフくらいしか今もやることがない。ただPg.99のメンバーの多くは(このバンドの最後のラインナップはメンバーが8人もいた)、自分がスターリングの出身だということをいつも得意げに主張していた。この地域のシーンの他のバンド――Frodus、Majority Rule、City of Caterpillar、Reactor No.7――は、バージニア郊外の他の町のバンドで、彼らも「自分たちは○○(町の名前)のバンドだ」と、自信を持って高らかに宣言していた。これらのバンドは別にFugazi のような、洗練され、品行方正でポリティカルなDCのバンドに敵意を抱いていたわけではない。ただそういったDCのバンドと比べ、若いメンバーがいて、友情や小さな頃に読んだお気に入りのSF 小説について歌う、もっと楽しいバンドだった。そして彼らのショウではモッシュができたのだった。
 Pg.99のレコードを多くリリースしたレーベル、Robotic Empireを始めたAndy Low はReactor No.7のメンバーだった。Robotic Empireの前身レーベルのRobodog RecordsからリリースされたPg.99の3つ目の音源“Document #3”(1999 年)は、Reactor No.7とのスプリット7“EP だ。あるとき私は、クリフトンという郊外の町の誰かの大きな家のリビングルームで、Reactor No.7のライブを見た。そのショウの最中に、なぜだか“Wall of Death”というモッシュをやろうということになった。Wall of Deathとは、人が腕を組んで横長の列を2本作り、その列が向かい合い、お互いに向かって真っ直ぐ走ってぶつかり合うというタイプのモッシュだ。このときのWall of Deathでは、列に参加した女性は私だけだった。「あの女の子を狙え!」と向かい側の列から誰かが叫ぶ声が聞こえる。たぶん冗談だろうが、でもちょっと脅迫的だ。「あの女の子だ!」 その仲間も叫んだ。2本の列はぶつかり合い、私は床にうつ伏せに倒れ込んだ。が、この家は郊外のすてきな家だったので、分厚いカーペットがいいクッションになってくれた。すると誰かが私の上に倒れ込んできて、その上にまた別の男が重なり、またその上に別の男が重なり……。私はじっとカーペットを見つめたままだった。全員が倒れ終わると、みんな笑ってお互いに手を取り合って起き上がった。
 Fugazi はいつもモッシュを禁止した。モッシュは暴力に結びつき、またバカなモッシャーがひとりいるだけで、他の多くの人たちのライブの経験を台無しにしてしまうと考えていたからだ。でもモッシュはおどけていて楽しいし、みんなをひとつにまとめることもある。2003 年、Pg.99 はDCでMajority Rule、Circle Takes the Square、City of Caterpillarと一緒に大きな解散ライブを行った。Pg.99のセットは機材トラブルが続き、曲の間に10 分ほど止まってしまうことが何度も起きた。でも会場のお客さんはその時間を有効に使った。会場の後ろの方は「安全地帯」で、そこにいれば他の人のモッシュのパンチを受けたりする心配がない場所だったが、Pg.99がトラブルで困っている間、安全地帯ではリンボーダンスやハンカチ落としのような子供の遊びが繰り広げられ、最後に人間ピラミッドが建った。このときは私はピラミッドの最下層役ではなく、郊外の仲間たちの重なりを3 段登り、ピラミッドの頂上で勝利を味わった。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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