Poison Idea/Discontent【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

Poison Idea/Discontent
(“Feel the Darkness” LP, American Leather Records他, 1990年)
鈴木智士

 「パンクの王者たち」Poison Ideaは、1980年の結成~93年の解散まで、そして1999年ごろの再結成~2019年の再解散(この間に細かく解散と再結成を繰り返したが)と、大きく分けて2つの活動期間があったが、その間にリリースしたアルバムが7枚、シングルは数知れず、カバーも多いバンドだったが、持ち曲はおそらくゆうに100曲を越えているだろう。もちろんハードコア・パンクの“クラシック”なバンドであることに疑問の余地はなく、また逆によくカバーされているバンドでもある。
 Poison Ideaが歌っていたことといえば、クソみたいな社会から逃避するしかない低所得者層と思われる少年の自棄や、ドラッグ、憎しみ、身の回りにある暴力と死など、ヴォーカルのJerry A.によるニヒリスティックなイメージが強いが(2016年のEl Zine vol.22におけるPI特集の中の「ボクとPoison Idea」というエッセイのコーナーでも、複数の寄稿者からそのイメージが語られる)、そんなバンドが真っ直ぐにネオナチ批判をしたのがこの“Discontent”という曲だ。この曲は最初はシングルとしてリリースされ、その後は3枚目のアルバム『Feel the Darkness』の一番最後にボーナストラックとして入っていることが多い(ただこのアルバムは何度も再発されており、中には入っていないものもあり)。「Listen Nazi, never again」(いいかナチ公、もう二度とごめんだ)というコーラスが印象的なこの曲だが、80年代の終わりごろ、Poison Ideaの地元ポートランドでのライブにナチ・スキンヘッズがよく来るようになり(当時のアメリカは活発なパンクシーンがある都市であれば、どこにでもナチ・スキンヘッズの問題が存在したようだ)、そいつらがライブの邪魔をしたりケンカをふっかけてきたりであまりにウザく、怒ったPoison Idea は9ヶ月くらいライブをやらなかった時期があり、その間にこの曲を書いたらしい。音楽的には日本のハードコアの影響も強い曲だが、今年5月に心臓発作により50歳で亡くなってしまったThee Slayer Hippyのタイトなドラムの攻撃性も相まって、ナチへの「怒り」がぶちまけられる。
 名曲揃いのこの3rdアルバムには、他にも警察による人殺しを歌ったパンクロックの名曲“The Badge”(ブランドン・リーの遺作となった『クロウ/飛翔伝説』のサントラでパンテラがカバーした)や、これぞPIというリフワークに、2019年の「最後の」来日ツアー時のMCでもJerry A.が語っていたように、妻にも子にも相手にされなかった友人の男がその家族の目の前で焼身自殺を図る様子をその男の視点で歌った “Alan’s on Fire”も入っているし(この曲はマシーン・ヘッドがチューニングを下げてカバーしていた)、車に乗ってクソみたいな現実から逃げる“Just to Get Away”は、ドイツのアニマル・ライツ・クラスト、Day By DayやTurbonegroがカバーしているように、時代もジャンルも超越して聞かれてきた。今なら2018年にリリースされたリマスターのLP2枚組(CDでも2枚組)が、内容も充実していて手に入りやすい。“Plastic Bomb”のAlternate Mixはすさまじくかっこいいので聞いたほうがいい。
 ハードコア・パンクの名作詞家Jerry A.が歌った世界観は、先述のようにニヒリズムに裏打ちされており、その名もずばり“Romantic Self Destruction”という曲もあるように自己破壊的なものも多いが、その目が外を向いたときには、世界や社会より小さな主語である、その世界や社会を構成する「人間」の暗部をじっと見つめていたようでもある。そしてこういった30年以上前に書かれた歌が、今やより身近で関係のある世界に我々は生きていることを改めて知らされる。ああ、Jerry A.さん、あなたの言葉は今後ますます重要になるのかもしれない。今からでもいい、自伝、もしくは解説付きの歌詞集でも出してはくれないものだろうか。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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