7 Minutes Of Nausea/Our Culture Is Boring【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

7 Minutes Of Nausea/Our Culture Is Boring 7”EP(TNT & Records, 1988年)
Terroreye

 7 Minutes Of Nausea(以下7MON)は1985年オーストラリアで結成されたノイズ・グラインドのバンドで、メンバーや活動拠点の移り変わりがありながらも、現在も精力的に活動している。同時期にAxCxやSound Pollutionといったノイズ・グランドのバンドも出てきていたが、7MONが他のバンドと大きく違うのは、歌詞がきちんとあった点とサウンドコラージュなどの音響処理を積極的に取り入れた点だろう。90年にリリースされた『Your Father Was A Poser…And What’s About You??』EP(TNT & Records)では、元々の演奏パートの再生速度を遅くし、その上にコラージュ的にSEを配置したりしている。
 この『Our Culture Is Boring』は7MON単独で出した初めてのレコードで、A面177曲、B面174曲の計351曲が収録されている。基本的には1 曲10秒にも満たないのだが、他の音源と同様に曲のタイトルと歌詞はきちんと存在しており、例えば1曲目の“Friendship”はこんな歌詞だ。「Can there be friendship between east and west??????????」(西側と東側に友好関係は存在しうるのか?) このような具合に歌詞、というか、一言のメッセージ/主張が毎曲吐き捨てられる。その中でも特に目立つのが、反資本主義、反人種差別、発展途上国への侵略に関する歌詞で、インサートにデカデカと「民主主義国家における反資本主義の選択」と書かれた上、オーストラリアでの原住民に対する警察の蛮行や、アメリカの黒人の投票権についての文章がコラージュされていることからも、やはり反資本主義や反人種差別がこのEP の主なテーマであることが窺い知れる。彼らがよく「ポリティカル・ノイズ・グラインド」と形容されるのは、他のバンドに比べ、こういったメッセージを強く打ち出しているイメージが強いからではないのだろうか。
 またそういった歌詞とは別に「政府は教会の力を弱体化させるためにブラックメタルを容認する」(“Black Metal In Poland”)や「金のためのモッシュ行為」(“One Core”)など、他のジャンルをおちょくる曲も何曲かあったりもする。おそらく『Our Culture Is Boring』というタイトル自体もそういった皮肉のニュアンスから付けられたものだろう。歌詞に関しては同時期に活動していたSore Throatも似たような路線の歌詞が多く、お互いに影響し合っていたのかもしれない(ちなみにSore Throat の『Disgrace to Corpse of Sid』は89年発売だが、88 年に出たこの7MONのEP には、「Bye bye Sid」と歌うだけの“R.I.P.”という曲が入っている)。ノイズ・グラインドというサブジャンルは、 Napalm Death が『Scum』で提示した速度と暴力性をさらに純化させ、数秒間のノイズのかたまりとして演奏することで反音楽的な姿勢を強く打ち出した。これはどんどん曲も複雑になり音楽的な発展を遂げていくと同時に、上昇志向も強くなっていく当時のグランドコアシーンに対しての一種のアンチテーゼであった。その中でも7MONは、サウンドと同じように歌詞も徹底的に商業主義に背を向けたアティチュードを提示していた。彼らはすべてもの対して「7分間の吐き気」を催させるために、数秒間の曲と1行にも満たない歌詞を何百何千と吐き出し続けているのだ。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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