VA/CrimethInc. In Our Time【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

VA/CrimethInc. In Our Time
(CrimethInc. 1997年)
鈴木智士

 最後にやや番外編ということで、とあるレーベルについて。CrimethInc.と言えば、今や世界中のアナキストが参照するオンライン情報源で、特に現代アメリカにおけるアナキスト全盛期だった(と過去形にしてしまうのはよくないが)90年代後半~ 2000年代にはすでに日本でもその出版物が流通しており、名の通ったコレクティブだった。その出版物のひとつ、“Days of War, Nights of Love”(2000 年)なんかは、オルタナティブな生活を志す人たちの教科書のような役割を果たしていたのではなかっただろうか。
 その根幹にあるアナキズムや反資本主義の姿勢は当時も今もまったく変わっていないと思うが、CrimethInc. は元々はハードコアのレーベルとして、90年代~2000年代前半にはバンドの音源や、“Inside Front”というジンを出していた。リリースしていたバンドも、パンクのアナキズムから連想されるようないわゆるクラストやアナーコ・パンクというわけではなく、メタリックでモッシーでマッチョな音のバンド(メタルコア、ニューヨークハードコア系、ニュースクール、エッジ・メタルなど、通称がよくわからないが、以降は単に「ハードコア」や「メタリック・ハードコア」とする)や、カオティック、エモ、Fugaziに影響されたようなポスト・ハードコアと、音だけで考えるとその時々の流行のバンドを出していたようにも思える。もちろんそれはCrimethInc./Inside Frontの首謀者でノースカロライナのバンド・CatharsisのヴォーカルのBrian D.の音楽的嗜好のせいだったのかもしれない。そもそもCatharsisもそういった文脈で受容されていたバンドで、少なくともそのモダンな音にはクラストやアナーコ・パンクの要素はなかった。
 ここで取り上げるCrimethInc.の “In Our Time”という1997年のコンピレーションLPは、今や捨て値で落ちているようなもう誰にも見向きもされないレコードかもしれないが、この1枚がそういったメタリック、カオティックなハードコアとアナキズムの接点を示そうとしていたのは興味深い。収録されたバンドは、A面にCongress、Timebomb、Systral、Final Exitといった、順にベルギー、イタリア、ドイツ、スウェーデンのメタリック、カオティックなハードコアのバンドが並ぶ。B面はすべてアメリカのバンドで、Damad、Jesuit、Gehennaという顔ぶれだ。これらのバンドが実際にどういった思想を持っていたのかは、ブックレットに長めのインタビューが掲載されているTimebomb(自分たちのことを、「Man Lifting Banner、Seein’ Redなどのような、ストレートエッジの哲学と社会主義思想を結びつけた“Red Edge Movement”のバンド」と認識していたようだ)を除き、特に言及はないが、そこには(おそらくBrian D.の言葉で)こう説明がある。
「このレコードに収録されたバンドは、特定のイデオロギーを守っているということではなく(実際に彼らはそんなバンドではない)、独創的でクリエイティブであること――人々に深い影響を与える音楽を作ること――で、画一化された世界に対し殴りかかっていることにおいて重要なのだ。」
 このレコードにはブックレットがもう1つ入っているのだが、そちらはLPサイズの変形8ページのジンのような感じで、「標準化」された世界にいかに抵抗するか、といった、CrimethInc.の基礎とでも言うべきメッセージが載っている。
 世界中のクラスト・パンクのバンドが曲を寄せた“Aftermath”(1999 年)というProfane Existenceへのベネフィット・コンピレーションにも参加しているDamadを除き、このコンピレーションに入っているその他のバンドは当時、Profane Existenceのようなクラスト、アナーコ・パンクをリリースする「ポリティカル」なパンク・レーベルと直接関係はなかったと思うが、このコンピ収録のバンドや先述のメタリック・ハードコア・バンドは、その多くが動物愛護の主張が強く、Timebombも同インタビューにおいて「第一世界」中心の資本主義のひどさがよく現れた産業として肉食産業や動物実験が行われる医療産業などを挙げ、自分たちもヴィーガン/ベジタリアンで、大企業のものはボイコットするライフスタイルを選んでいる、ということを語っている。そしてもちろん、メタリックでアニマル・ライツなハードコアと言えば、良くも悪くも有名なミリタント・ヴィーガン・ストレートエッジの「大物」、Earth Crisisもいる。一方でProfane ExistenceやTribal War のようなレーベルやその周辺でも、動物の権利について歌っているバンドは非常に多かった。反消費主義や環境問題に取り組むことで菜食を選ぶのは自然な流れだっただろうし、そもそもグリーンアナキズムのように、アナキズムにとって動物の権利や環境問題は取り組むべき必須課題でもあり、すでにConflictやFlux of Pink Indiansのような80年代のアナーコ・パンクのバンドからもそういったメッセージは放たれていた。その他のハードコアと菜食主義のリンクであれば、これはアメリカだけなのかもしれないが、Cro-MagsやShelterなどのバンドに見られるハレー・クリシュナ起源の肉食拒否もある。それぞれその動機や志は違うようだが、そのどれもが菜食主義でリンクするのは興味深い(だからどんなタイプのハードコア・パンク/ハードコアであっても、欧米にはヴィーガン、ベジタリアンのパンクスが非常に多い。多いどころかパンクならまずベジであるべき、という通過儀礼の第一歩のようですらある)。
 そういったさまざまな背景を持って動物の権利を訴えた/菜食ライフスタイルを選んだバンドやパンクスだが、アナーコ・パンクやクラストとメタリック・ハードコアの間での交流はあまりなかったようだ。おそらく動物の権利についてはある程度共有できる考えがあっても、その他の点――後者の信奉するポジティブでクリーンなライフスタイルやストレートエッジ、バンドのメジャー志向、直接行動への考え方の違い、前者が禁忌としなかった飲酒、ドラッグ使用、そしてそもそもの音やファッションの差異など――で折り合いがつかなかったのだろう。ただベルギーではHiatusと先述のCongressが対バンしたこともあったようだ。H8000のバンドも最初はクラストと一緒に何かを模索したのだろうか…。そういった状況の中でCrimethInc.はやや特殊で、レーベルとしてはこのコンピレーションのようにハードコア寄りだったが、その中身は直接行動や、スクワッティング(空き家占拠)、「トレイン・パンク」のような自律的生活を志向したもので、その独特なポジションがアナキストの情報源という現在の状態に導いたのかもしれない。そしてこのコレクティブ自体も、音楽への興味よりも、段々と運動に傾斜していったようにも思える。
 CrimethInc.は最近は多言語で記事を配信しているようで、日本語へは有志やHapaxのような媒体によって翻訳され、サイト上で読めるようになっているようだ(リンクを参照)。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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