Violators/Summer of ’81【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

Violators/Summer of ’81
(“Summer Of ’81”, No Future Records, 1982年)
黒杉研而

 No Future Recordsと言えばViolatorsかThe Partisans、あるいはBlitzか…ってくらいClassicなバンドなので、かれかのじょらに関する基本的なbiographyはさておくとして、実はこのバンド及び周辺バンドの政治的、社会的側面は日本ではあまり認知されていないのではないかと思う。とかく「女性ボーカルのOi」バンドといった面ばかりが強調されがちだし、事実、筆者も歌詞を精読するまでは恥ずかしながらそのような認識だった。
 この曲は“Riot”(暴動)を主題としたもので、所謂UK’82のバンドが好きなパンクスなら頻繁に触れる単語でもあろうこの“Riot”、果たしてどういった背景から起こるのか。また、それに対して当時のパンクスはどのような立場を表明したのだろうか? 結論から言ってしまうと、少なくともViolatorsに関しては暴動を明確に肯定している。それどころか、暴動の最中で警官がプロテスターの反撃で命を落とす事さえ、批判ではなく肯定的に語られている。

また1人、警官のクソ野郎が死んだ
ストリートには血だまりと芳しい香りがたちこめている
彼の頭をブーツが取り囲む様を見る
群衆が彼の死にゆく様を見届ける
手に握られた警棒で、彼はその場を支配しようとした
でもそんなやり方じゃ社会をよくする事なんてできない
それは権力を一層増長させるだけ
あなたもこれに抗議しないといけない
私たちは暴動を起こしている
これはファシストの道化への最後通告
誰も私たちを沈黙させられやしない
これがあなたの提示した法に対する私たちの答え

 どうだろうか? かくいう自分でさえ、初めて訳した当時は「よくもここまで直球で肯定したな」と思ったのが正直な所だ。警官相手とはいえ、殺すのはどうなのかという意見もあるだろう。あまつさえ、こんなキャッチーで一度聴いたら忘れないような曲に乗せて、だ。しかし、この曲をDJが掛ければ今でも海外のパンクスはウヨウヨ踊り出してシンガロングするし、Great Punk Classicとして認識されているのが実際だ。直近では、北米で警察の黒人殺害を端緒に始まった“暴動”を支持するような言動は、SNS 上でも多くの世界のパンクスが行なっている。
 もしかしたらあなたはそれに違和感を覚えているかもしれない。左派やリベラルを自負するあなたでさえそう思ってるかもしれない。しかし、是非はともかく、これがグローバルなパンクのいわば皮膚感覚なのではないかと思う。理屈以前のそうした皮膚感覚あってこその“ACAB(全ての警官はクソ野郎)”という事だ。
 暴動が起こる原因は様々だ。英国で言えば、それは学生への弾圧に対して起こる学費値上げ反対闘争のようなものであったり、あるいは移民への抑圧からカウンターとして起こるものであったり。日本でも「西成暴動」と名指されもするそれは、ここでいう暴動にあたるだろう。中世、近世の「一揆」も広義のそれに当たるだろう。それらは決して海を隔てた対岸の出来事ではないし、まずもって時の権力による圧政/抑圧ありきなのだ。
 この曲で取り上げられている暴動が指すものとは明らかに、1981年に起こったブリクストン暴動と、そこから英国各地に波及したものだろう。サッチャー政権による本格的な新自由主義政策の導入及び移民への排外政策は、かの国に以前より存在していた極右勢力の急速な支持拡大をもたらした。現代のイギリスのファシスト、極右勢力の台頭の歴史は、少なくとも1930年代あたりにまで遡る事が出来るようだ。バラバラの小さな結社に過ぎなかった彼ら…League of Empire Loyalists(帝国王党同盟)、Racial Preservation Society(人種保存協会)、Greater Britain Movement(大英国運動)などの党員が一手に結集し、イギリス国民戦線(National Front)を結党したのが1967年の事だ。そのNational Frontの党首であるJohn Tyndallが同党を去り新たに立ち上げたのが、Menaceの“G.L.C.”の替え歌であるThe Oppressedの同名曲で耳に残る“BNP”(イギリス国民党)だが、これの結党が1982年だ。67年から82年の15年の間にこうした極右勢力と移民の人々との緊張は極限まで高まり、それがブリクストン暴動の引き金となった。その一連の過程は不可避的に警察権力の強化、介入をもたらし、この曲で語られているような情景が現実に起こったという事だろう。このEPのリリースはタイトルの通り81年で、先述したBNP結党の前年でもある。これらの背景を踏まえてみると“UK’82”が内包する意味と、Violators始め当時のバンドが残していった作品の意義が一層鮮明になって現れてくるのではないだろうか。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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