インフレ、円安、熱波【2026年ヨーロッパ その1】

376番のバスに乗るとRockaway Parkに行ける。今回Portisheadには行かなかった。

ブログ1本目は、まずなんとも貧乏臭い話から。
今回のヨーロッパ旅は、物価高と円安、おまけに熱波に苦しめられたことはツイッターなどに少し書いたが、そのことをもう少し丁寧に書くことにする。
日本にいてももちろんある程度わかってはいたことだが、実際に行くと、以前は気にならなかった交通費のような細かい出費が、積もり積もって結構な額になっていた。十分なカネを用意して、ちゃんとしたホテルに泊まってちゃんとしたレストランで食事するような旅ならば、そんなことは気にならないのだろうが、貧乏旅行は食費、交通費、宿泊費をいかに抑えるかが鍵なのは、今も昔も変わらない。
(以下は現在の為替で、1ユーロ=約190円、1ポンド=約220円で換算していただければ)

物価高と円安
ロンドンでは地下鉄に乗った方が早い場合も、バスの方が安いので、時間がかかってもバスに乗ったが、私がイギリスにいた5日間は、観測史上最高だという熱波に見事に重なっており、エアコンのないバスは本当にきつかった。まあロンドンの地下鉄もすべてにエアコンがついているわけではなさそうだったが。そんな暑いバスでも1回乗れば400円近くかかるのだが…。
トリノのバスもそうだったが、イギリスの地下鉄やバスは、もはや切符や専用のオイスターカードのようなものは不要で、タッチ決済可のクレジットカードやスマホで乗れてしまう。これはヨーロッパでは(他の国でも?)かなり一般的になっているようで、ハンガリーでも空港への/からの100Eバスはクレジットカードだけで乗れた。便利だが恐ろしい。一応ちゃんと損にならないように計算して、一日の上限額などは決められているらしいが、実際にいくら使っているのかがよくわからない。乗り継ぎのタイミングによっては運賃が合算されることもあるみたいだが、細かいことは調べないとわからない。その運賃はクレジットカード会社の明細にすぐ反映されるわけでもないし、毎回アプリやサイトを開いて明細を確認するのも手間だ。知らぬ間によくわからない所定の額が引き落とされていることになる。あとで見たら、地下鉄2本とバスに乗っただけで1500円を超えていたこともあり、なぜこんなにするのかと悲しくなった。またルートン空港からロンドン市内へ向かうテムズリンクも、チケットの買い方が悪かったのか、30分くらい乗っただけで25ポンドくらい払っていた、高い…。バカな旅行者はカネがないのにムダなカネを使うことになる。
このテクノロジーに依存した公共交通は、当然それについていけない者を排除するわけで、ロンドンで次のような光景を見た。ある中年の男がバスに乗ろうとしているが、運転手はそれを拒否している。男は「携帯のバッテリーが切れていて支払いができない。病院に行かないといけないから乗せてくれ」と何度も言っているが、運転手は聞く耳を持たず。男はFワードを連発し、「お前を呪ってやるからな」と激怒していた。バスに乗れないその男は足を引きずっていた。スマホやクレカがない人たちはどうするのだろうか。

外食は軒並み高く(イギリスは元々高いしあまりおいしくないので)、基本的に諦めることにして、パンとピーナツバター、果物、カップラーメンなどを食べていた。Rockaway Parkにはカフェがあって、そこではとてもおいしいヴィーガン料理が10ポンドくらいで食べられたが(これでも外食としては妥当な値段のようである)、今思えば旅の後半に体調が悪くなったのは、クソ暑いのにちゃんと食事をとらなかったせいだったのかもしれない。

ヨーロッパなどで半年ほどダラダラしていた14年前、2012年は、今思えば円高が最高潮だった時期で、1ユーロ100円前後、ポンドも120円くらいだった。ヨーロッパの債務危機もあり、日本円は無敵の通貨だった。ロンドンやベルリンでは、レコードも本もDVDも買いまくり、溜まったら日本に送っていた。送料もまだ安かった。それが今回の旅行では、レコード屋には行くことすらなかった。去年あたりからユーロに対して円は史上最安値を日々更新し、その14年前の倍になった。レコードに対する興味が失せたというのもあるが、レコード屋のホームページを見れば、LP1枚20ポンドや30ユーロという価格が書いてある。お店に行けば何かいい中古レコードがあるかもしれないが、送るのは送料が高い。持って帰るのも手間だし、もういっそのこと諦めることにした。ロンドンで書店はいくつか回ったが、大判の本は荷物になるので、買うのをやめた。面白そうなロバート・ミッチャムの評伝が5ポンドと安かったんだが、厚みが8cmくらいあり諦めた。バックパックに入らない。
ベルリンでもレコード屋には行かなかったが(映画を観に行ったのと、『ポゼッション』のロケ地に行ったくらい)、正確に書けば、体調がおかしくて外出する気力がなかった。ちなみにベルリンも地下鉄の料金は高く、少し移動するだけでも4ユーロかかるので、移動を面倒くさがることにつながった。ベルリンは未だにチケットを買って使う前に印字するシステムか、あるいはパスを持つかだが、14年前はチケットを買わずに検札に遭っても、旅行者は罰金の支払いを逃れられたので、あまりチケットを買わなかった記憶があるが、今は旅行者だろうが罰金をその場で払わされるらしいので、それももうできない。
ベルリンは14年前に行ったときには、ファラフェルやケバブが4~5ユーロで食べられて、今回もちょっとそれを期待していたが、さすがにもうそんなに安くはなく、ピタで6ユーロ、プレートだとその倍くらいだった。まあコロナ禍やいくつかの戦争を経てのインフレとしてはそんなものなのだろうが、何せ2012年と比べて円が半分の価値になっているので、頭の中で為替換算するとすべてが高く感じる。たまたま生まれ育った自国の通貨がここまで無価値になっていると、それを得るための労働というものもバカバカしくなってくる。今までいい思いをしたから仕方ないか。
そんなバカバカしさは同じユーロ圏にも当然存在し、イタリアではスクワットで知り合った若者が現場作業(野外フェス会場の設営)で時給7ユーロで働いていたが、ベルリンではカフェのバイトの時給が14ユーロはあるという。それだけの差があるので、イタリアからフランスやドイツへ出稼ぎに出る人も多く、フランスのぶどう畑で働けばイタリアの倍は稼げると言っていた。14年前にも聞いた話だが、そのときフランスへ出稼ぎに出ていたのは旧ユーゴや東欧の国々の人たちであり、今はそれが隣のイタリア人になっている。イタリアはその分物価が安いので、フランス国境に住むフランス人はイタリアに日用品の買い物に来たりもするらしい。

熱波
先ほど書いたように、今回はおまけに熱波にも苦しめられた。6月のイギリスなんて暑くても20度台だろうと、薄手のジャケットまで持っていったのに、まったく邪魔な荷物になっただけだった。5月にも熱波が来ていたのは知っていたが、まさかまた来るとは思わず、日本のジメジメした梅雨から逃れられてラッキーだとすら思っていたくらいだったが、完全に自分の読み違いだった。ロンドンやブリストルで35度なんて、誰が想像できる?
ブリストルにいた3日間が特に暑かった。ロンドンからブリストルへの長距離バスはちゃんとエアコンがついていたが、ブリストル市街からRockaway Parkの最寄りバス停まで行く路線バスにはエアコンがなく、おまけに40分ほどかかる。車内に入ってくる風は乏しく、バス停に止まる度にじっとりと暑くなる。ずっとサウナにいるような気分だった。Rockawayも一通り回ることはできたが、暑すぎて頭がぼーっとした状態でいたので、何を話したか思い出せない部分もある…。Debacle Pathにちゃんとまとめられるだろうか。
その他はエアビーで予約したアパートなどに泊まったが(今回のイギリス旅はベルリンに住んでいる相方Nと一緒に回ったので、ホステルよりもエアビーのほうが割安だった。ホステルももう昔ほど安くはない)、ブリストルで泊まった民家の一室には扇風機すらなく、おまけにヨーロッパの窓は大きく開けられないものが多く、風通しはほとんどなく、おそらく室温30度とかで寝ていたんだと思う。網戸もないので蚊も入ってくる。眠りも浅くなる。

と、西欧、特にイギリスは、もう日本で普通に働いて貯めた雀の涙ほどのカネで遊びに行くようなところではなくなってしまったのかもしれない。北欧に行くのと同等か、それ以上か。おまけに気候変動の影響はどう考えてもヨーロッパのほうが厳しい。エアコンがないのはすぐに生死につながる問題だ。エアコンは各国様々な規制があるようで、簡単に設置できるものでもないらしい。物価が高いのに加えて、暑さできつい思いまでするなんて、旅行先としては最悪だ。イギリス国内も行きたいところはまだあるものの、Rockawayには定期的に通いたいものの、以前書いたように、もう行けないのかもしれない。

今もバンドのツアーで行けば、飛行機代や食費などはカバーできるのかもしれない。特に有名バンドであれば、フェスでの1回のショウでメンバー全員分の飛行機代が支払われるケースも多いと聞く。DIYパンクのバンドをやることは、かつては誰もが持てる「パスポート」だと思っていたが、今や知名度による階級の存在する、ある種の「特権」になってしまったとも言える。有名でないバンドは身銭を切って行くか、そもそも諦めて行かないか。逆に円安に乗じて欧米から日本にやって来るバンドも大勢いるが、そういった為替やインフレの都合によって、行き来できる「国」や「国民」は変わるのかもしれない。
バンドでのツアーはその土地々々をゆっくり見て回れないので私はもうずっと興味がないが(ツアーに出られるようなバンドもやっていないが)、このようにして主に経済的な事情で、「国境」は以前よりも強固なものになっているのだろうか。まあそもそも日本はパスポートの取得率が極めて低い国なので(未だにビザなし渡航が世界一レベルで多く可能な「強い」パスポートにもかかわらず)、海外に出てみたいという気のある人は、たとえそれがパンク・シーンであっても、そんなにいないのかもしれないが。

(2026/7/20)