ギリシャその後 -ギリシャの3人のパンクスへのインタビュー(2013年)

(2013/5/1 旧ブログより)

このブログには継続的に書いてきましたギリシャの現状について、先日発売されたel zine vol.13に記事を掲載してもらいましたが、誌面だけでなくここにも転載することにしました(山路さんありがとうございます)。昨年会ったギリシャ・パンクス3人へのインタビューです。掲載の文章と同内容ですが、まだ読んでいないよという方は是非ご一読下さい。

ギリシャその後 -ギリシャの三人のパンクスへのインタビュー

el zine vol.12で、昨年夏に私がギリシャを訪れて目の当たりにした、現在の経済危機のギリシャに生きるパンクスやアナキストたちについて書かせてもらった。その後の状況をギリシャで会った友人たちに聞く限り、ただ物事は悪くなるばかりで何もよくはならないと皆口を揃えた。最早日本のメディアでも取り上げられることはなくなったかの地で実際に何が起こっているのか、友人3人にメールでインタビューした。

グレッグ (ヴォロス在住、7inch Distro主宰 http://www.7inch.gr/ )

-特に6月の総選挙の後から、ファシスト政党「黄金の夜明け(Golden Dawn)」が国中で勢力を広げていると聞きます。彼らの具体的な活動や、最近起きた出来事について教えて下さい。

グレッグ: 残念なことに、最近の世論調査によるとネオナチ政党黄金の夜明けの支持率は約10%。昨年6月のギリシャ総選挙では6.92%だったんだけど。
彼らはもう議会に18議席を持つ「合法」の政党なので、政府から資金の提供もある。なので今の彼らの最たる活動は、国中に黄金の夜明けオフィスを設立することだよ。でも多くの場合、ギリシャのアンチ・ファシストたちがそれらを破壊するなど即座に行動しているね。数年前にはアテネの本事務所を爆破し、ほとんどビル全体を破壊したこともあったよ。
あとこれ以外には、彼らはよく移民を襲ってるね。特にパキスタンからの移民が多く襲撃されているよ。パキスタン人はもっぱら背が低く痩せているから、アルバニア人移民(アグレッシブで武器を使ったりグループで動いていたり、時にアルバニア人マフィアは黄金の夜明け党のメンバーとも一緒に行動する)や、背が高くて力の強いアフリカ系移民より標的にされやすいわけだ。
アテネの中心部にはAdios Panteleimonasという地区があり、もっぱらそこでファシストたちは移民を襲撃してるよ。そこから5ストリート行ったところにはAttika Squareがあって、そこには移民が多く住んでる。でもAttika Squareでは襲撃はないんだ。なぜならAttika Squareにはデリヘル用の安ホテルがあって、このホテルは黄金の夜明け党のリーダーとその妻が所有してるんだよ! なので彼らがどこを攻撃するかは簡単にわかるよ。

-そんなホテルをやってるのですか?

そのホテルはNew Dreamって言うんだ、詳しいことはよくわからないけどね。でもまあこのホテルに限ったことではなくて、このファシスト政党のリーダーは70年代にはファシストのグループと一緒になってジャーナリストに暴行を加えたり、アテネで極右テロリストグループの一員として爆破テロを行ったこともある男だよ。彼はたった13ヶ月だけ刑務所に入って80年代にはギリシャ国家情報庁で働いて、今や選挙で選ばれた政党のリーダーだよ。

-昨年6月の選挙で政権が変わってから、政府は明らかにスクワットを標的にしていると思いますか? またその理由は? 6月以前はどうでしたか?

公共秩序と市民保護省大臣(Minister of Public Order and Citizen Protection)のNikos Dendias(70年代の終わりに小さなファシスト/ナショナリスト政党のメンバーだった)が、それに反抗するものすべてを標的にしてるのは明らかだよ。ギリシャ国営放送の2人のジャーナリストが彼に対して何か言っただけで解雇されたこともあった。フェイスブックに黄金の夜明け党についての投稿をして逮捕された人もいる。
理由は、Nikos Dendiasが100%ピュアなファシストで、彼のファシスト的な考えに反抗する人はすべて敵だからということだね。スクワットは彼への抵抗をするための場所のようなものなので、標的にされているのは自明だよ。もちろん6月以前にも、ファシストや警察からの小さな襲撃はあったけど、言及するほどのものではなかった。お伝えしておくべきことは、現政権だけではなくて、テレビや新聞などの主要メディアは、政府の洗脳的政策によって完全ににコントロールされているということだね。つまりそういったメディアが人々をできるだけ黙らせ、抵抗からは距離を置くように仕向けているということ。
つまるところ、私たちは人民によって選ばれた独裁者によって作られた独裁政権の中に生きているというわけだよ。

-なるほど、すごい名前の省ですね。与党の政治家にもファシストがいて、政府をコントロールし邪魔者を排除しようとしているわけですね。そのような現状の中で、Gregの住んでいるヴォロスではアナキストやパンクスたちはどのように行動していますか?

ここ数ヶ月の間にヴォロスでは4つの大きな行動があったよ。
(2012年)10月6日には約1,000人のアンチ・ファシストがデモを行った(1,000人という数はヴォロスのような小さな町ではかなり大きい数だよ)。 ※ヴォロスの人口は約10万人
10月27日には約250人のアンチ・ファシストが黄金の夜明け党の非公式な事務所を2時間ほど取り囲んだよ。その事務所の4階にいた10~15人くらいのファシストたちはずっと警察に守られていたんだけどね。
で、12月12日の行動ではその事務所を破壊した。
12月22日の行動は、そのネオナチたちが貧しいギリシャ人にポテトとスパゲッティを与える活動を予定してて、それに対抗した71人のアンチ・ファシストたち全員が逮捕されたよ(ギリシャ人にあげるのみで、彼らは移民などには一切何も与えないんだよ)。
翌日23日、警棒で武装した8人のネオナチが、15人ほどで集まっていたアンチ・ファシストたちのミーティングを暗殺隊のように襲撃したんだ。結果は3対0、3人のネオナチが怪我をしたね。その内の一人は重傷だったようだよ。アンチ・ファシスト側にはけが人はいなかったけど、一人が逮捕された(ネオナチ側に逮捕者はなし)。
これらの行動以外には、町中にアンチ・ファシズムを呼びかけるポスターを貼ったり、アンチファのスローガンをグラフィティしたり、逆にファシストのスローガンやポスターを綺麗に掃除したりしてるよ。ほとんどのギリシャのパンクスはバンドで演奏する以外にも常にこういった政治的行動に参加しているよ。

-そういったギリシャのパンクスやアナキストの行動はとても過激に見えます。実際に西ヨーロッパのパンクスもそう言っていたのを聞いたこともあります。日本の今のパンクスや活動家からすれば、爆弾闘争というのは一般的には信じられない行動です。なぜギリシャではそういった行動が起きると思いますか?

それはギリシャの政治状況がそうさせてきたからだと思う。1946年から1949年までは内戦があり、共産主義者と、イギリス政府の後ろ盾を得た右派政府と第二次世界大戦下でのナチス信奉者たちが戦った(ギリシャはナチ占領時代から左派レジスタンスの動きがあった)。その内戦で共産主義勢力が負けてから、彼らは大変な生活を送るはめになったんだ。もちろん今でも左対右の憎みあいは残ってるけどね。その後1967年~1974年には軍事独裁があって、その軍事政権崩壊後に左派の強力なムーブメントがあったんだ。同時に右派テロリストグループも活動を開始したけどね。
その後しばらくして、1981年に社会主義政権が登場するのと同時にギリシャにパンクムーブメントが起きたよ。それと一緒に、アナキストムーブメントも爆発的に起こった、初期のギリシャのパンクバンドの歌詞にも表れているように非常に攻撃的なものだった(ちなみにAnti..とStressというのがギリシャシーン最初期、1980年結成のバンドだよ。Anti…はもっとエレクトロなポストパンクっぽい音だけど。あとは1982年に結成されたGenia Toy Xaous (Chaos Generation)というバンドはもっと先鋭的だった。そのバンドの一曲、Bastardokratia (Bastard Stateというような意味)はクラシック・ソングで、今でも多くのギリシャ・パンクスが口ずさんでる歌だよ)。


社会主義政権もまたすごく激しくて、その時代のバンドの歌詞には80年代中盤の状況や暴動について歌われたものが多いよ。それらはお互いに呼応するような感じで、過去の過激な出来事から新政権が攻撃的になって、それに対するようにパンクやアナキストのムーブメントが過激になっていったんだ。
というわけで、ギリシャで私たちがやっていることっていうのは、パンクのアティチュードや歌詞に続くってことなんだ。パンクというのは常に不服従であり、反抗するということだから。だから私たちはそのルールに則ってるということだね。これらがあって、ギリシャでは私たちは自分たち独自のやり方で行動してるってわけだよ(もっと極端で過激にやるのが好きだけどね!)、例えばDIYのパンクのライブは無料でやるとかね。過去にはいくらか入場料を払うってこともあったけど、その後には「ヘルメット」の習慣ができたよ、ライブのためのカンパをバイクのヘルメットに入れるっていうやり方のね。

-なるほど、歴史的背景も現在に直結しているわけですね。Anti..は私もギリシャにいた時に再発LPを買いました。キーボード主体のかっこいいバンドですよね。
ではこの経済低迷、国家破綻の状況の中で、何が一番生活に支障をきたしていますか?

最大の問題は、失業率が現在26.8%で仕事がないことだね(若年層は56.8%)。2010年の5月にギリシャがIMF、EU、ヨーロッパ中央銀行と契約をする前には、失業率は14%だった。
また別の大きな問題は、賃金の低下と、仕事があっても健康保険や年金基金がないなどの「ブラック」な状況下で働かなくてはならないこと。税金もかなり高額だよ。
またアテネには現在約2万人のホームレスがいると言われている。そのほとんどはギリシャ人で、冬にはもちろん過酷な状況下におかれる。今年の冬は今のところそんなに寒くはないのがまだ救いだけどね。
暖房のためのガスや電気(今年1月から価格が13%上昇した)の価格もとても高く、多くの家や学校では暖房が使えないなどの問題もあるよ。

-このel zine vol.12の拙稿でも登場したヴォロスのマツァゴウスクワットのミツォスが先日逮捕され怪我も負ったと聞きました。ギリシャではデモ参加者の逮捕はどのように行われますか?

ミツォスともう一人女性が逮捕されたのは、11月17日のデモにおいてだったよ。この日は1974年の軍事政権崩壊を記念する日で、警察に抗う伝統的な日でもあるんだ。過去にこの日には警察によってデモ参加者が殺されるということも起きてるよ。彼らの逮捕というのは実はギリシャ警察にとっては主要な手段なんだ。実態はこう。警察はただデモをしているというだけで、パンクスやアナキスト、左翼に見える人を逮捕する。そういったデモ参加者を逮捕した後に、火炎瓶やその他の違法なものを逮捕者のカバンにこっそり忍び込ませ、それを発見したふりをして罪に問うわけなんだ。youtubeを見るとそういった警察の「逮捕」のビデオがいくつかあるよ。また警察は、デモ参加者がフードを被っていたり旗のついた棒を持っていたというだけで起訴する場合もあるね。その棒が武器になりうるっていう理由だけでだよ!フードを被ってたという場合は、顔を隠していたという理由で罪に問われるわけさ。どちらの場合も公判を受けないといけない。逮捕後はほとんどの場合、警察は逮捕者に暴行を加えたり拷問をしたり、屈辱的な仕打ちをしたりするよ。

-あからさまな不当逮捕というわけですね。
ありがとうグレッグ、最後に何かありますか?

じゃあ最後に、1993年にProfane Existanceからリリースされたギリシャの伝説的なハードコア・パンクバンド、Negative Stanceの”Spectators of Decadence”7インチのブックレットから引用するよ。

“ギリシャの裏側”
「沈まない太陽、終わりのない美麗な海岸線、あたたかくもてなしてくれる人々、ウゾ(ギリシャの伝統的な酒)、フェダ・チーズ、スヴラキ。これらは多くの海外の人たちが思うギリシャのイメージだろう。
この小さなブックレットにだが、ほとんど見られることのないギリシャの一側面を紹介したいと思う。警察による蛮行、拷問、虐待と国家による専制についてだ。これらは1991年のアムネスティ・インターナショナルのギリシャについてのレポートだ。人権は毎日のように犯され侵害される。そしてこれらの多くのことにメディアは決まって見て見ぬ振りをする。
さあ、目を開いてみよう。ギリシャなんてのはあなたが思っているような天国とは程遠いことがわかるだろう。」
もうこの文章が書かれてから20年経つけど、日に日に事は悪くなってるよ。

2012年12月2日のアテネでのデモの模様

 

ディミトリス (テッサロニキ在住、Go Filth Goのギター)

-昨年の総選挙後の黄金の夜明け党の勢力拡大について、またギリシャ第2の都市テッサロニキの状況について教えて下さい。

ディミトリス: 黄金の夜明け党は何も今に始まったことではないんだよ。もちろんここ最近で更によく知られるようになったわけだけど、彼らは何年も前に活動を始めてるよ。黄金の夜明け党は100%ファシストでレイシストな組織だよ。リーダーはNikolaos Michaloliakosと言って、この金持ちが党を始めたんだ。こいつがここ最近やったのはある種の軍隊みたいなものをこっそり作ったことだ。で今となっては議席も取って、それを公にしたってことだね。議席を取る前は主要な政党をサポートする役割として存在もしていた。で今や議会で結構な支持率も得てるというわけだよ。ギリシャでは約50万人が去年5月/6月の選挙で黄金の夜明け党に投票したよ。信じられない数字だけど、残念ながら本当なんだ。
彼らは移民やアンチ・ファシストたちに攻撃をしかけてくるけど、アンチ・ファシストの活動はずっと前から彼らに対抗してきたよ。でも現在はたとえばアテネではもっと強力になっていて襲撃だけじゃなくてときには殺人さえも起きてしまっているのが現状だよ。
アンチ・ファシストの動きは絶対に止まらないけど、問題ももちろん残ってる。最悪なのは、黄金の夜明け党のメンバーの多くは警察官だってことなんだよ。約2/3の警察官が先の選挙では黄金の夜明け党に投票したって言うし、いつも何かが起きるときは、彼らは警察や国のサポートを受けるんだ。またメディアも彼らをサポートしてるね。どうやって? 彼らについて何も言わないことによってだよ。で最終的には彼らを支持してるってわけさ。ほんとばかばかしいよ。信じられない。
閑話休題、彼らに投票した人たちの数の問題に戻るよ。
さっき50万人が投票したって言ったけど、もちろんギリシャに50万人のファシストがいるというわけではないよ。でも投票した人たちはファシスト政党に投票したことについての責任はあるよね。
今黄金の夜明け党がやってることは、「私たちはいいことをしますよ」ってことを人々の頭の中に刷り込もうとしていることなんだ。みなさんを盗みやレイプをする移民から守ったり老人の年金を攻撃から守ったりしますよと吹聴しているわけなんだ。あとそのリーダーは街頭演説して、彼らはみなさんの友人だとかみなさんの問題を理解し解決しますと謳うわけ。大口を叩いて政府を批判するわけだね。
それで人々はその術中にはまってしまい、彼なら何か変えてくれるんじゃないかとか世の中をよくしてくれるんじゃないかと思い始める。あとはギリシャ正教についても言及するので、悲しいことに、ギリシャ人の多くはとても宗教的だから、余計人々の心を捉えるわけだ。あとアテネは大きな都市なので、合法違法に関わらず移民もたくさんいる。それで多くの人たちは彼らを脅威として考えるようになってきたんだ。
それは典型的な「移民は私たちの仕事を横取りし、女性を殺し、子供をレイプする」みたいなばかけだ話だよ。たとえばギリシャの経済状況がよかったときには彼らは安価な労働手段だから移民を多く雇っていたけどね。
もちろんギリシャ内の移民のことはずっと問題になってきた。こういった移民の人たちというのは、よりよいチャンスを求めてヨーロッパに行きたがってるんだ。まずギリシャに入って、そこから西ヨーロッパなりへ入ろうと思うわけだけど、結果的にはビザがもらえないとかそういう理由でここに留まらざるをえないわけだよ。それで彼らはここにたまってしまっている。本当に残念なことだよ。まず彼らはここギリシャではそういった貧しい生活をしなければいけないわけだし、移民を悪者だと思って恐れるバカな奴らがたくさんいて何かしでかそうとしている中で生きてかなきゃいけないんだ。
ここテッサロニキでは状況は少し違って、そんなに悪いわけではないよ。ファシストたちは町に顔を出さないし、そもそも数もアテネよりは少なくてアンチ・ファシストの動きもアテネより強い。田舎の方が大きな問題だろうね。僕にとっては典型的なギリシャ人のメンタリティというのは完全に間違っていると思う。とても自己中心的で閉鎖的なんだよ。それがまた黄金の夜明けの勢力を助長することにもなっている。黄金の夜明けはそこら中にいて、人々はそれを支持してる。だからそういった人たちも黄金の夜明けが行った悪事について責任はあると思うよ。

-テッサロニキでもスクワットが襲撃され追い出しがあったと聞きました。

そう、テッサロニキではDelta Squatが昨年9月12日に警察によって襲撃され追い出しを受けたよ。そこはもうそれからは閉じたままだね。それに関わる裁判もあったけど、ずっと住んでたコロンビア人が国外追放になったよ。
アテネでは12月から今年1月にかけてVilla AmaliasとSkaramagka Squat、それに98FMっていう反権威主義的なラジオ局も襲撃されて追い出されたよね。クサンティでも同じ頃にXanaduっていうスクワットがファシストに襲撃されたよ。

-そのようなファシストの興隆の中で、パンクスやアナキストはどのように活動していますか? またどれくらいのパンクスがバンドなどの音楽活動以外に、政治的な活動を行ったりしていますか?

ここギリシャではパンクシーンはアナキストの行動と密接に関係しているんだ。パンクバンドをやるということは、それらのアナキズムの考えを持つということで、ギリシャではパンクはとても政治的なものなんだ。本来はどこでもそうあるべきだと思う。
ほとんどのパンクスはデモに行くなどして、アンチ・ファシストや反権威主義、アナキズムの行動を支持している。たぶんパンクス全体の70~80%、時にはもっとたくさんのパンクスがそういった行動をしていると思うよ。
例えば、もしパンクのライブがやってる時にどこかでファシストや警察による襲撃があったとすると、ライブなんか即刻中止してみんな(出演するバンドも一緒に)その襲撃があった場所に向かうだろうね。パンクと政治はここでは一緒のものなんだ。

-なるほど、パンクとアナキズムが密着した状況がごく一般的というわけですね。ではこの状況下、日常生活において何が一番の問題だと思う?

ギリシャの経済状況は色んな方向に崩壊してるね。たくさんのことが非難されるべきだと思う。まず、個人的な意見だけど、ギリシャの政治家ってのは他のどの国よりも欲深いように思うんだよ。ちょっと誇張してるけど本当だよ。本来は人々や雇用のために使われるはずだった金を使い込んだり、それなのに人々はそういった政治家に票を入れ続けてて、まるで健忘症でも患ってるみたいに政治家が何をしてきたかを忘れてしまって、選挙の直前なんかに政治家の口車に乗せられてしまうような。羊みたいにね。
もちろん人々も問題だ。政治家は税金を使い込むってみな文句を言うけど、もしそういった人たちが同じ立場になったら同じことをするだろうからね。さっきも言ったけどギリシャでは精神的な問題が一番大きいと個人的には思う。間違ったメンタリティと間違った考え方だね。
今現在、ギリシャでの生活にかかるコストは法外に高い。のに給料はどんどん下がっている。ただ光熱費や家賃、毎日の生活費だけを払うためだけに長い時間働かなければいけないんだよ。その一方で、失業率はどんどん上がっているっていうのに金持ちはどんどん金持ちになっている。もう死ぬしかない人たちもいて、自殺率も過去と比べると上がっているんだ。これが資本主義の本当の顔だよね。
これはもちろん権力の計算通りなんだよね。資本主義というのはいわゆるこういった危機の上に造られているわけだし。ただ人々をコントロールするための手段なんだよね。
EUは明らかにギリシャから利益を得てる、この状況をつくることで人々をだめにして、絶望に追いやって、すべて買い上げようとしてるんだよ。EUはどこの国がまだコントロール可能な将棋の駒になっていないかを見極めようとしてて、それをひとたび見つけたら、彼らの思うまで利益を貪り取ろうという魂胆なんだよ。

-正に資本主義の成れの果て、といった感じですね。ではディミの個人的な意見として、そのような絶望的な状況の中で、人々はどうやって生きていくべきだと考える? この危機をただ耐え抜くか、立ち上がって戦うか、または国外に脱出するか。もちろんすべての人にそういった選択肢があるわけではないと思いますが。

そうだね、本当に絶望的な状況だよ。少なくともここ20年は生活は苦しくなり続けていると言える状況だからね。多くの人が仕事もなく、収入もごくわずかで、でも税金はたくさん払わなければいけないような貧困線(最低限の生活をするための所得水準)以下の生活をしているのは確かだよ。だからたくさんの人が仕事を求めて国外に出ることを選んでるね。これは確かに一つの解決策だと思うし、僕としても賛成だよ。
でももちろんすべての人が国外に出られるわけじゃないし、決断するのも難しいことだよね。
だから、僕が思うには、今こそ人々は目を見開いて何が起きているかちゃんと見るべき時なんだと思う。このシステムはもう機能しないこと、資本主義というのがごく一部の利益、それも人の生活を犠牲にした利益しか生み出さないということをね。だから今こそ目を覚まして、団結して、連帯してこの状況を乗り越えていかなければならないと思う。これらはアナキスト・ムーブメントがずっと何年も言ってきたことだし、今こそ人々はそれを理解しないといけないんだよね。自主管理、自治組織、こういった考えが今こそ現実のものとなって、理論から実践へと移るべき時だと思う。失うものはシステムに括り付けられている鎖しかないわけだから。

-ありがとう。じゃあここからはディミのバンド、Go Filth Goについて聞かせて。バンドの簡単な歴史と、あとロゴを日本のアーティストSUGI氏が手がけてるけど、これはどういった経緯で?

Go Filth Goは2008年の終わりに僕とMaou(ドラム)で始めたんだ。僕らはいい友達で、Disclose, Discharge, Mob 47, Anti-Cimex, Framtidなんかが好きで、raw distorted-as-hell d-beat punkをやりたかったから始めたんだよ。それで別の友達のMike(ベース)とThanos(ボーカル)に声をかけて、即答でOKもらって今のラインナップになったんだ。
2010年の9月にカセットをリリースして、Besthovenとのスプリット7インチ、Electric Funeralとのスプリット7インチを2011年の頭に出して、去年単独7インチが出たよ。
ギリシャでは何回かライブをやって、2011年4月にはヨーロッパツアーもしたよ。もちろん全部DIYでやってて、近い友達やその考え方に共感できる人たちと活動をしてるよ。
SUGIのアートワークは最高だよね!ある時彼に連絡をしてみて、もし僕たちの音楽を気に入ったら何か描いてもらえないかとお願いをしたんだ。それでやってもらえて、そこからずっとやりとりしてるよ。SUGIは本当に最高の人だしとても感謝してるよ!

-ハードコア・パンクバンドでプレイすることに関して、何か思ってることはある? さっきも言ってたけどギリシャのパンクスは皆すごく音楽以外でも活動的だよね。これに関して何かディミが思うことを教えて。

そうだね、さっきも言ったけど、ほとんどのパンクスは政治的にラディカルで活動的だね。たくさんのパンクスがスクワットに住んでるし、そういう行動とかに関わってるよ。一般的にギリシャのパンクスはそういう感じで、コレクティヴやスクワットに特に関わりがなくても、その時起きてることをサポートしてるよ。僕はそういうのが好きだし、もちろんパンクバンドをやってるからと言って、絶対にしなくてはいけないということでもない。でもここではみんなそうしてるって感じかな。こういった活動によって、資本主義の手から離れた何かを自分たちで創造しようとしてるんだよ。
僕たちは一般的に物事を政治的に考えるというか、政治というのが生活の一部になっていて、誰もそれを知らんぷりすることができないんだよ。みなポリティカルになる必要があるというかね。システムに対抗し戦う方法っていうのはたくさんあるし、パトカーを燃やして路上で警官と戦うというだけじゃない(もちろんそれも素晴らしいけどね!)。また政治的になる、政治について考えるということは、日々の生活での自覚だったり、より小さな行動にも繋がるんだ。創造性だったり、資本主義に頼らない娯楽だったり、スポンサーや広告がない空間だったり、強いては自由の瞬間を勝ち取るということだね。

-正にアナキズムの考えだね。では最後に日本のパンクスへメッセージを。

サトシさん、面白いインタビューをドーモアリガトウゴザイマス!
日本のみなさんへ、僕たちは日本のシーンやバンド(古いバンドも新しいバンドも)が大好きだし、いつか日本でライブがしたいです! http://gofilthgo.blogspot.com/ でGo Filth Goをチェックしてね。
でもし僕らのことが気に入ったら、どうかベネフィットで僕らに資金援助をして日本ツアーを企画して下さい、ほんとに貧乏なんですよ、なんちゃって!
Stay punk, Stay true!

2012年12月に警察によって排除されたアテネの古参スクワットVilla Amaliasへの連帯デモの模様。幕には「私たちはみなVilla Amaliasだ」の文。

 

テミス (クサンティ在住、学生)

-特に6月の総選挙の後から、ファシスト政党「黄金の夜明け(Golden Dawn)」が国中で勢力を広げていると聞きます。彼らの具体的な活動や歴史的背景を教えて。

テミス: 黄金の夜明け党は明らかに人種差別的な考え方を持った、ファシストでネオナチの政党だね。この党は1983年に、E.P.E.N.(National Political Union)の元リーダーだったNikolaos Michaloliakosによって作られた(E.P.E.N自体は1967年から1974年までのギリシャ軍事政権時代の首相によって作られた党)。この黄金の夜明けの党首は、若いころからとても活発に国家主義の活動をしていて、1978年には武器の保有と2つの映画館で30人以上が怪我をした爆弾テロの犯行者として逮捕された過去がある。
ギリシャのこの経済的社会的危機を背景に、黄金の夜明け党は不法移民を非難している。移民がギリシャ人が行うべき仕事を占有してしまっていると文句を言って彼らをギリシャから追い出そうとしたり、1974年に軍事政権が崩壊して以降(実のところそれは完全に終わったわけではなく、今日でも形をかえて私たちを迫害してるんだけどね)のギリシャの政治システムの堕落に対して文句を言い、現在何が起こっているのか把握できていないギリシャの中流階級の支持を得ようとしているんだ。そういった活動を通して、このファシスト政党は勢力を拡大していて、今じゃ世論調査で9%の支持率を得ているんだよ。これは2008年の1%以下という数字と比べたら信じられないくらい大きな数字だよ。
彼らは移民や左翼への攻撃を数え切れないほど行ってるし、警察は決まってこれに目をつむっていて、ファシストたちは一人としてこういった移民に対する殺人や襲撃について罪に問われたことはないんだよ。わかると思うけど、移民たちがギリシャで生活するメリットなんて本当に悲しいことだけどゼロなんだよね。たとえ警察が捕まえたとしても、何もしないだろうし、単にごく軽い罪を受けるだけだと思うよ。状況は本当にひどくなっているよ。

-今テミスはクサンティという学生の多い町にいるけど、そこでの状況はどうですか? 学生はアンチ・ファシズムの活動をしている? またファシストの学生というのもいる?

そうだね、しかしながらよりたくさんの人たちがこの状況に対して何かをしようとしているのも確かで、アンチ・ファシストのデモへの参加者は増えているし、そういったアンチ・ファシストの活動の場も増えているね。ただこれは僕の個人的な意見だけど、これにも暗い側面があって、左翼系の政党が政治利用しようと「無害な」アンチ・ファシストの活動をして、ギリシャの政治の中で人気を得ようとしているんだ。1年前ですらこのファシズムの興隆を認めていなかったような政党なのに、今じゃ一番重要な問題だと言っているようなね。

クサンティで行われたアンチ・ファシズムのヒップホップのライブのフライヤー。活動しているのは何もパンクだけではない。

僕が今住んでいるクサンティという町ではアンチ・ファシズムの活動はとても活発で、どんどん強くなっているよ。このムーブメントの多くは学生によってだけど、ここに住んでいる人たちも関心を寄せてる。クサンティや周りの小さな町でも、デモや情報センターの設立、コンサートやTVやラジオでの活動といったアンチ・ファシズムの活動が何かしら起こってるよ。ファシストの学生というのもたぶんいると思うけど、数はとても少ないだろうし表に出てくるとやられちゃうから怖くて出てこれないと思うよ。

-なるほど、311以降の日本の「反原発」を利用する政治家にも似た構図ですね。ではこの経済状況の中で、何が一番問題になっていると思う?

この経済危機は主に中流階級の人々に一番影響してると思う。たくさんの人が貧困にあえいでいるし、自殺率も上がっている。多くの人々が生活必需品を買う金もなく、中には家を出ざるをえなくなり、路上生活を強いられる人だっている。こういった状況はアテネやテッサロニキのようなより大きな都市で起きてるよ。2013年現在の失業率は約27%だといわれているけど、実際には35%ほどだとも言われている。大体150万人の失業者がいるということになるね。どういった生活になるか大体想像つくよね。たくさんのホームレスの人々が路上で暮らし、ゴミ箱を漁ってる状況だよ。特に大都市ではね。

-テミスは今まだ学生だけど、卒業後なりたい職とか何か希望はある?

学生については、卒業後に就職できるというのはどんどん難しくなってるよ。何か資格を持ってても同じだね。もし本当に「ラッキー」で仕事が見つかったとしても、給料がもらえないとか、もらえても月300~400ユーロってとこだろうね。つまるところ、仕事が見つかるなんていうのはほんとレアなケースで、だから最近の若い人たちも海外に出て生活しようとしてるよ。僕ももうここでは何の未来も描けないから、勉強なのか仕事なのかわからないけど将来的にはギリシャを離れることを考え始めてるよ。未来は本当に不明瞭さ。


以上、3人のギリシャのパンクスが皆半ば嘆くかのように、ギリシャの現状はさらに過酷になっている。が、ディミトリスの言うように、国家が破綻している状況だからこそ、自分たちで自分たちの生を掴もうというアナキズムの考えを実践に移そうと行動しているのが彼ら彼女らギリシャのパンクスやアナキストなわけである。その活動方法はインタビュー中にもあったような歴史的背景もあって過激だが、ファシストとの攻防において過激にならざるをえない逼迫した現状もそこに存在するように思える。
文中にもあったギリシャの自殺率については、2012年末の時点で2011年同時期より33%も高くなっているというニュースもあった(Greek Suicide Rate Keeps Soaring (Greek Reporter, 2012.11.22) (http://greece.greekreporter.com/2012/11/22/greek-suicide-rate-keeps-soaring/)。元々はユーロ一低い自殺率(2008年のWTO統計で10万人あたりの自殺者が2.8人 ※日本は10万人あたり23.8人<2011年WTO統計>)だったギリシャの変容ぶりがもうすぐデータからも顕になると思われる。また国外に脱出するギリシャ人も増え、今やギリシャ第三の都市はギリシャ人移民15万人を抱えるオーストラリアのメルボルンだという話もある。
ファシズムの台頭は国が疲弊したときに起こると歴史は示している。ギリシャの今を見ることは、日本の近い未来を垣間見ることであると私は考える。その中で彼ら彼女らがどのように日々の生活を生き、自らの「生」を取り戻しているのか、 遠く離れた地ではあるが、ひとつの実例として注視したいと思う。