今年の頭に無職になり暇していた弟と一緒に、遊びでバンドを始めた。その名をNo Workと呼ぶことにした。一緒にやるのは22年ぶりである。私も請け仕事にあぶれ、体調もようやく戻ってきたので、昔から一度やってみたかったDTMをこの機会に試してみようと思い、自分たちでレコーディングをすることにした。使っていない家の倉庫に古びたドラムセットと、たまに音が鳴らないYAMAHAのコンボアンプを置いて、隣家はそんなに近くないので防音はほとんどせずに、ドカドカジャカジャカとやって2週間で10曲くらい作り、まるでわけもわからないままレコーディングを始めた。倉庫にはエアコンがないので3月はまだ寒かったし、5月になるともう倉庫内は暑くなってきたので、すべての作業をさっさと終わらせる必要があった。気候変動は倉庫内のレコーディング作業にも大いに影響する。
それだけで一発録りできるだろうという安直な考えから、まずZoomのハンディレコーダーH4essentialを買ったのだが、ギターの音が小さくてこれでは全然だめだということになり、ドラムとそれ以外を別々に録ることにした。一発録りとは作業量がまるで違ってくることにはこのとき気がつかなかった。素人の行き当たりばったりである。マイクを2本買って立て、スネアとバスドラを拾ってそのレコーダーに録音した(H4essentialにはXLR外部入力が2つあるのだ)。マイクが安すぎたのか向きが悪かったのか、バスドラはモサッとして全然好みの音ではなかったが、まあそんなに機材にカネをかけられないので仕方がない。その2chにZoomの内蔵マイクと、ドラムだけで3ch使って録音し、それをすべてパソコンに取り込んだ。1万円くらいの適当なオーディオ・インターフェースを買って、ギターはテレキャス(純正PU真ん中)に中華ファズを1つ噛まして、録ったドラム音を聴きながら重ねて録り(モニターの出力が小さくてこれが一番大変で、波形を見ながらキメを合わせたりもした)、ベースは部屋でライン録音、ボーカルは倉庫でギャーギャー叫び、老母が心配する、と順に録っていった。そのオーディオ・インターフェースにDTMソフトがついてきたので、ソフトはそれを使った。ここまでが録音のざっとの流れである。
さて次はミックスである。一番大変で頭がおかしくなりそうな作業である。DTMソフトは安物でもできることが無限にありすぎて、ググってもYoutubeを見てもよくわからず、設定や操作などもおそらくとても細かく色々とできるんだろうが、飽き性の私は途中で作業が嫌になり、もう自分の耳がいいやと感じればそれでいいことにした。録ったものにかけるエフェクトなんて、種類がありすぎて何を使えばいいのかさっぱりわからない。とりあえず全部リバーブ深めにかけとけとか、ギターにはTube Screamerもどきを強めにかけとけとか、やればやるほど作業は雑になる。曲ごとにエフェクトの種類も程度もバラバラだ(コピペの方法がわからなかった)。リミッターかけたら勝手に抑えてくれるじゃん、ということで、レベルも好きなだけ上げた。パンクなんて勢いと感覚の音楽である。DTMをやっている友人に教えを請おうかとも少し思ったが、1訊いて10返ってきても余計にわけがわからないので、誰にも頼らず自分だけでやることにした。こういった「諦め」こそが、プロとアマ、どころか、アマとアマ中のアマの間にそびえ立つ越えられない壁なのだろう。本や冊子を作るときに使うInDesignに似ている。先日InDesignの文字組みアキ量設定を組版のプロから教わった。Debacle Path別冊2はその設定で作った。おかげで(ミスった1か所を除いて)とてもきれいな組版になった。やはりプロが蓄積してきた知識と技術は何物にも代えがたい。
面倒くさがりの私は生まれてこの方ギターの練習をほとんどしてこなかったため、ソロがこれっぽっちも弾けないので、ソロは弟の元バンドメンバー大先輩A氏に頼むことにし、倉庫で録音したデータが入ったラップトップを持って名古屋のスタジオに入ったが、これがなかなか難しい。モニターの音が相変わらず小さかったり、アンプの音がでかすぎたりで、まったくうまく録れない。で結局日を改め、家の部屋で小さいコンボアンプにマイクを立てて宅録した。これはうまく行った。
使ったDTMソフトではマスタリングができなかったので(マスタリングをするにはさらにお金を出して、もうひとつ高いスペックのソフトを買わないといけないらしい。予算オーバー)、マスタリングは省いた。省いていいのだろうか、わからない。20年以上バンドをやってきてこれだからもう救いようがない。これでは聴いてもらうのがちょっと恥ずかしい気もしたが、でもまあサウンド的にも素人が作れば良くも悪くもこんなものだろうというレベルのものができたので(それをrawと言ってごまかせる、ごまかしてしまうのがハードコア・パンク)、bandcampにアップして、CD-Rを焼いた(カセットは高騰しすぎていて諦めた)。ジャケットはリソ印刷にしようと思い、誰も使っていない市の図書館のリソ機を使ってやろうとペーパーワークに試行錯誤したが(許可を得た「市民団体」しか使えないのだ、クソ野郎)、結局認可されず拒否されたので、渋々インクジェットで印刷した。ジャケットの絵は、就職氷河期世代の我々にはなぜ仕事がないのか(ノーワーク)を考えたときに、真っ先に浮かぶ政治家たちに首だけ登場してもらった。早速友人たちに聴いてもらったところ、反応は様々。「随分とちゃんとしたレコーディングじゃないか」、「メチャいい」と言う人から、「初めて自分たちで録音したにしてはよく録れてる」、「近年稀に見るロウさ」、「ひどい音」、「もうちょっと頑張ってミックスしたら?」、「真面目にコメントできない」などなど。個人的にはバンド時代のScornをパクった#3(ミックス期間中にDeparture Chandelierをよく聴いてたので、パソコンのキーボードを使ったキーボード音も入れてみた)、Mob47をコピったアタック感重視の#6などが好きだ。買っていただいたみなさん、売っていただいたレコード屋さん、ありがとうございます。bandcampでまだ売ってます↓
一応このプロジェクトはしばらく続ける予定なのだが、弟がさすがにNo Workではなくなったため、ほとんどスタジオに入れないまま冬を迎えてしまった。結果、バンドのインスタグラム(上記)は“農ワーク”になった。またメンバーが足りないのでライブをやる予定は今のところない。Active Mindsみたいにはなれない。
(2024/12/10)