MDC/Millions Of Dead Cops【ハードコア・パンクの歌詞を読む―Debacle Path 別冊1】

MDC/Millions Of Dead Cops
(“Hey Cop!!! If I Had A Face Like Yours…”, R Radical Records, Beer City Records他, 1991年)
鈴木智士

 「反警察パンク・バンド」と言ったら、当Gray Window Pressの最初の翻訳本が、バンドのヴォーカルのデイヴ・ディクターの自伝(『MDC あるアメリカン・ハードコア・パンク史 ―ぶっ壊れた文明の回想録』 おかげさまで版元品切れ、重版未定です)だったということなどは一旦無視したとしても、「ウン百万人の死んだポリ公」という名前をつけて数々のトラブルに巻き込まれたMDCについて書かないわけにはいかない。断言するが、この冊子の他の記事にもたくさん登場するように、警察はパンクスの敵である。パンクスだけではない、人民の敵だと言ってもいい。
 MDCがそのバンド名を改めて曲名に付したこの曲には、警察により銃殺された彼らの友人たちの名前が出てくる。「人殺しポリ公の銃弾を6発撃ち込まれた」と最初に登場するのは、南カリフォルニアの初期ハードコア・パンク・バンド、Circle Oneの初代ヴォーカルのJohn Maciasだ。Circle OneはDead Kennedysのようなちょっとひねくれたサウンドに、John Maciasの特異なキャラクターが映えたバンドだった。Maciasはレイシズムや警察などの政治的なテーマを扱いながらも、他の多くのニヒリズムや怒りに取り憑かれたバンドのそれとは違い、ポジティブで元気になるような歌詞を乗せ、パンクス同士でケンカするのではなく、ユニティや平和を唱えるような人だったらしい。ライブがことごとく暴動のようだったという当時のLA・南カリフォルニアのシーンを考えると、Maciasはかなり珍しい人だったのだろう。Black Flagとも対バンが多かったようで、個人的な付き合いもあったヘンリー・ロリンズは、1993年の彼のストーリーテリングのショウでMaciasのことを、「シーンの“裁判官”パンクスだった」と回顧している。またCircle OneのドラムのJody Hillによれば、面倒見のいいMaciasのもとに若いパンクスが集まるようになり、それはある種のギャングのようにもなり、Maciasがいないときには問題を起こしたこともあったらしいが、彼はそういった若いパンクスをいい方向へ導いていたらしい。Circle Oneは何回か解散したあとの1991年に再結成ライブを行ったが、その3日後に、それまでも精神状態が悪く鬱病で苦しんでいたJohn Maciasは発狂したらしく、このMDCの曲の歌詞にあるように、サンタモニカ警察に銃で撃たれ亡くなった。精神的に追い詰められたMaciasがそうなる前に助けられる人は、そこにはいなかった。Maciasは29歳だった。
 他の被害者では、デイヴ・ディクターの自伝にも登場するが、デイヴが学生時代の出来事で、ドラッグストアから薬を盗み、背後から警官に撃たれて亡くなったのが、John Maciasのあとに登場するTate だ(詳しくは自伝の22ページを参照)。もちろんそれらの警官たちは、これまでの警官による殺人のほとんどの場合と同様、何の罰も受けることがなかったのだろう、この曲はこう続く。

自分たちで仲間の捜査
ネズミにチーズを守らせるようなものだ
会員制殺人ポリ公クラブ
本件の調査は未解決のままこれにて終了
KKKの力じゃ足りないから
ポリ公どもがロープを持って行って首を吊らせた
奴隷の祖父が、父が、兄弟が眠る
惨めな墓の隣の道で

 この歌詞の後半部分は19世紀後半から20世紀中盤まで続いた、KKKや白人による黒人へのLynching=私刑(カタカナで「リンチ」と言うと、集団で暴力を振るう意味だと理解されがちだが、この場合は私的制裁により相手を殺害することを意味するので「私刑」の方が合うだろう)に、警官も加担していた歴史に触れている。KKKのあの白三角頭巾を脱いだら警官だった、ということはもう常識のようなものであり、MDCのオースティン時代の同志的バンド(のちにサンフランシスコでも一緒に活動した)、その名もずばり“Dicks Hate The Police”という名曲もあるThe Dicks は、アルバム“Kill from The Heart”(1983年)に収録の“Anti-Klan (Part 1 And 2)”において、「昼間は青(警官)だが夜には白くなる」とヴォーカルのゲイリー・フロイドが歌っている。
 黒人への私刑についてはビリー・ホリデイの「奇妙な果実」があまりに有名だが、その奇妙な果実=私刑の光景を写した数々の写真の中には、木にぶら下がった黒人の死体を見てにやりと笑う白人の顔が映ったものものもある。そういった写真はこれまでの様々な差別と殺戮の歴史を私たちに思い出させる。もちろん日本人がその白人と同等の立場になって行った、朝鮮人や中国人をはじめとするアジアの人民への虐殺も含めて。

「ハードコア・パンクの歌詞を読む ―Debacle Path 別冊1」より

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