元々はFluxusやパフォーマンス・アートといった前衛芸術に端を発し、70年代後半にパンク・ムーヴメントと融合する事で産まれた初期のインダストリアルは、極端にエフェクトされたヴォイスや、歪んだ電子音/ギターノイズ、リズムボックスを積極的に用いた無機質なビート、不穏なテープ・コラージュやループなどの実験的な手法を用いた無機質且つノイジーなサウンドを特徴としていた。 イギリスのThrobbing Gristle(以下TG)やCabaret Voltaire、オーストラリアのS.P.K.などはここ日本でも特に認知度が高く、この時期の代表的なインダストリアル・バンドとして名を挙げる事が出来るだろう。 そのサウンドだけではなく、TGが1976年に設立したレーベル“Industrial Records”からリリースされた彼等の1stアルバムに掲げられている“Industrial Music for Industrial People”というスローガンが象徴しているように、現代社会への警鐘、反体制的な姿勢を強烈に打ち出していたという点でも、“We Make Noise Not Music”なDIYハードコア・パンクスの琴線に触れたに違いない。 そんな初期インダストリアルからの影響を公言しているUKハードコア・パンク・バンドと云えば、まず初めに名前が挙がるのはNapalm Deathだろう。知っての通り、彼等はCrass直系のアナーコ・パンクとしてそのキャリアをスタートさせたが、初期のメンバー全員がTG、Test Dept (彼等はロンドン出身のスクウォット・パンクスでもあった) 、S.P.K.をフェイバリットに挙げている。次第にそのサウンドは苛烈さを増し、やがて“Scum”を産む訳だが、その音楽的背景にはパンク/ハードコアだけでなく、これらインダストリアルの存在もあったというわけである。
これは彼等の過渡期、アナーコ・パンクから更にノイジーで過激なサウンドへと変容していく過程を捉えた貴重なデモ音源と言える。Rudimentary PeniとDisorderをミックスしたような曲調ながら、空間を埋め尽くすフィードバック・ノイズとディレイ処理されたヴォーカルはインダストリアルやWhitehouse、Ramlehなどパワー・エレクトロニクスからの影響を伺わせる。 アシッドな感触すら有る彼等独特の音響工作はここで一旦ピークを迎え、僅か5ヶ月後に録音された次なるデモ、“From Enslavement To Obliteration” (1986) ではよりメタリックな要素を強め、Mick Harrisのドラムが牽引する高速パートが随所に導入されるなど、まさにグラインドコア前夜、pre-“Scum”なステンチ・サウンドへと変化していく。 その後、“Scum”のアナログA面までギタリストを務めたJustin BroadrickはNapalm Deathを脱退。Head of David, Fall of Becauseといったバンドを経てGodfleshを結成する。