パンクスは映画に頻繁に登場してきた。特にパンクが世間に広く認知されていた70年代後半から80年代あたりまでは、社会風俗を表すイメージのひとつとして、大なり小なり様々なスクリーンに映し出されてきた。 また、パンクのムーブメントやバンドについてのドキュメンタリーもかなりの数の作品が作られてきた。『ウェインズ・ワールド』といった映画でも有名なペネロープ・スフィーリスが制作した『デクライン』三部作(『2』はメタルについてだが)などが特に有名だが、2000年代以降はCrassのような大物バンドを扱った『CRASS: ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』(2006年。英文をカタカナにしただけの長いタイトルはいい加減やめよう…)から、文字通りアメリカン・ハードコアをアーカイブした原作本を元にした『アメリカン・ハードコア』(2006)や、ボストン・ハードコアを扱った“All Ages: The Boston Hardcore Film”(2012年。監督は80年代のNYHCのバンド、Antidoteのヴォーカル。ボストンのストレート・エッジがいかに男性優位だったかが確認できる…)もあったり、あと昨年最後の来日を果たしたPoison Ideaのドキュメンタリー“Legacy of Dysfunction”(2017年)では、ヴォーカルのJerry Aがホワイトボードに合ってるのか合ってないのかよくわからないメンバーの変遷を書きながら過去を振り返る姿が楽しめる(再加入したギターのベジタブルが、映画内のインタビュー中にバンドを再び辞める発言をする、というサプライズ付き)。
鈴木智士:
・Hard-Core: Life of My Own/Harley Flanagan(Feral House)※鈴木による書評はこちら
・コバニ・コーリング/ゼロカルカーレ、栗原俊秀(訳)(花伝社)
・誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち/スティーヴン ウィット、関美和 (訳)(ハヤカワ文庫)
・五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」/小山俊樹(中公新書)
・Nick Blinko/Nick Blinko(Zagava)
AK Acosta:
・This Is Memorial Device/David Keenan (Faber & Faber)
・Vernon Subutex 1/Virginie Despentes (Fsg Originals)
・Mutations: The Many Strange Faces of Hardcore Punk/Sam McPheeters (Rare Bird Books)
・Sigh, Gone: A Misfit’s Memoir of Great Books, Punk Rock, and the Fight to Fit In/Phuc Tran (Flatiron Books)
・The Flamethrowers/Rachel Kushner (Scribner)
・Disabuse/Demos Of War (Rødel Records)
現在も活動を続けるカナダのベテラン・グラインドExistench。その前身バンドであるDisabuseが1990年に残した2本のデモを纏めたLP。Disabuseといえば、Extreme Noise TerrorとDisruptのメンバーによる同名プロジェクト・バンド(1994年リリースのEPは名作)がよく知られているが、カナダのDisabuseの方も実に味わい深いズタボロ・ステンチ・クラストだ。Doom/Extreme Noise Terror/Sore Throat影響下のストレート・フォワードなクラストコアを聴かせるDemo1、Napalm Death等の影響も消化し、後のExistenchへと繋がっていくようなグラインド色を強めたDemo2と共に必聴。
・Excrement Of War/Cathode Ray Coma
90s UKクラスト裏番長が残した唯一のアルバム。実を言うとPhobia Recordsからのアナログ再発盤は買ってないんだけど、近年の再発ラッシュには正直、驚きを隠せずにいる。だって、Excrement Of Warだぜ?!(笑) 世界中から掻き集めても、このバンドを好きだという人間は私を含め30人くらいだろうと、ずっと思っていたのだが…。それだけこの時代のクラストの再評価が広く浸透してきたという事か。まあ、ここまで書いといて、彼等の前身バンドであるBacteriaのDemoを聴く事の方が実はずっと多かったんだけど。
・V.A/We Need Some DISCIPLINE Here. (Self-Released)
小岩Bushbashで定期的に開催されているKLONNSとGRANULE(RIP)の共同企画から発展したコンピ。ウィッチハウスから始まりクラスト、EBM、トラップと様々な音楽が混在した内容は人によっては昔のRAWLIFE等を想起するかもしれないが、享楽的なパーティーノリは一切なく、冷たく黒いムードが全体を覆っている。この不穏さがある意味Disciplineという言葉を体現していると言えるのかも。
・Jim O’Rourke/Shutting Down Here (Portraits GRM)
GRM(フランス音楽研究グループ)が新しく始めた、現行の作家による電子音楽シリーズの第一弾。流石GRMというべきか、音の鳴り方が素晴らしくアナログ至上主義では決してない筆者でもレコードという媒体の出音の良さを改めて感じることが出来た。もちろん内容は言わずもがなで、ジム・オルークのエレクトロアコースティック作品の中でも指折りの出来。ちなみにアートワークはsunn0)))のスティーヴン・オマリーが担当。
・Roland Kayn/Scanning (Reiger Records Reeks)
サイバネティックミュージックと評された電子音楽家の82年から83年にかけて制作された未発表音源集(リマスターはジムオルークが担当)。CD10枚組というボリュームもさることながら、音の方も有機的な電子音のアンサンブルが、まるで膨張し続ける宇宙空間のような果てしないスケールを感じさせる。
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鈴木智士(Gray Window Press)
・Ulver/Flowers of Evil (House of Mythology)
前々作あたりから完全にシンセ・ポップに振り切ったUlverの新作。Garmの声はさらに心地よくなって、とにかく聞きやすくてひたすらリピートしてよく聞いた。ジャケは『裁かるるジャンヌ』で、キャッチーな3曲目には『マッドマックス2』の写真で、その次のページ、“Hour of the Wolf”とベルイマンの映画から拝借したと思しきタイトルの曲の横には『顔のない眼』の娘の全身ショットが載ってて、最近は映画にインスパイアされて曲作ってるのかなと(ただ『顔のない眼』の肖像権クレジットには「“Woman without a Face” 監督:グスタフ・モランデル」と書かれてて、どうやらベルイマンに引っ張られた誤植っぽい…)。
・Cro-Mags/In the Beginning (Mission Two Entertainment)
面白かったハーレー・フラナガン自伝を読んだからというわけではなく、ほとんど2020年版“The Age of Quarrel”ともいえるこの緊張感が、あれこれ起きた末にCro-Magsの名義でついに戻ってきたんだなと確認できるアルバム。ハーレーも出てる“Between Wars”という映画に提供したインスト音源も収録。
・Funereal Presence/Achatius (Sepulchral Voice Records)
お世話になってるRecord Boy大倉氏からいつもこのあたりは教えてもらうんだけど、これはNegative Planeのドラムのソロ・プロジェクトの2nd。ただLPは買い逃したのでとりあえずmp3で聞いただけだが、これがオカルト・ブラックメタルの変異種の小物としておくにはもったいないクオリティだった。高校生のころに初めてEmperorの“Anthems to the Welkin at Dusk”を聞いて、この世にはこんなにきれいで恐ろしい音楽があるのかと衝撃を受けたときと似たような感覚を39歳で再び得たのです。(特にドラムの)録音が生っぽいのに大仰で長尺な曲を聞かせるメロディはクセになる。