2020年よく聞いた音源/Sound we listened to in 2020

今年もよろしくお願いします。

だいたい毎年ブログやTwitter等に書いていた「その年よく聞いた音源」を、こちらに掲載しておきます。
今回はDebacle Pathにレビューや寄稿で協力してもらってる久保氏とTerroreye氏にも参加してもらいました。以下それぞれ順不同。(鈴木)


久保景(Deformed Existence)

・Disabuse/Demos Of War (Rødel Records)
現在も活動を続けるカナダのベテラン・グラインドExistench。その前身バンドであるDisabuseが1990年に残した2本のデモを纏めたLP。Disabuseといえば、Extreme Noise TerrorとDisruptのメンバーによる同名プロジェクト・バンド(1994年リリースのEPは名作)がよく知られているが、カナダのDisabuseの方も実に味わい深いズタボロ・ステンチ・クラストだ。Doom/Extreme Noise Terror/Sore Throat影響下のストレート・フォワードなクラストコアを聴かせるDemo1、Napalm Death等の影響も消化し、後のExistenchへと繋がっていくようなグラインド色を強めたDemo2と共に必聴。

・Excrement Of War/Cathode Ray Coma
90s UKクラスト裏番長が残した唯一のアルバム。実を言うとPhobia Recordsからのアナログ再発盤は買ってないんだけど、近年の再発ラッシュには正直、驚きを隠せずにいる。だって、Excrement Of Warだぜ?!(笑) 世界中から掻き集めても、このバンドを好きだという人間は私を含め30人くらいだろうと、ずっと思っていたのだが…。それだけこの時代のクラストの再評価が広く浸透してきたという事か。まあ、ここまで書いといて、彼等の前身バンドであるBacteriaのDemoを聴く事の方が実はずっと多かったんだけど。

・Hellbastard/Genocidal Crust:The Demos 1986-1987
ペルーのHelvetet Recordsによるリイシューで、名作Demoの“Ripper Crust”、“Hate Militia”を収録した2in1 CD。数年前に某レコ屋で回収した同内容の粗悪ブートCD-Rの音飛びに悩まされつつ生きてきた私にとっては、心底待ち侘びたリリースだ。ダイ・ハード・エディションにはステッカーとポスターが付属しており、ステッカーの方はベース・ギターに早速貼り付けた。音に関しては最早説明不用だろう。“クラスト”の原初にして、1つの完成形をも提示したマスターピースである。

・Kruelty/A Dying Truth (Daymare Recordings)
遅ればせながら2019年の8月に初めて観たライヴでの圧倒的なウォール・オブ・サウンドと鬼気迫るステージングに圧倒されて以来、私はKrueltyに対して嫉妬、もしくは羨望にも似た感情を抱き続けている。記念すべき1stフル・レングスとなる今作も、スタジオ録音ならではの極悪且つ緻密なサウンド・プロダクションとドス黒いデス・ドゥーム・リフが突き抜けまくっている。早く対バンしたい!

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Terroreye(Kaltbruching Acideath)

・John Wiese/Magnetic Stencil/1 (Helicopter)
Sissy Spacekの活動などで知られるLAのノイズ作家による、他人から提供された音素材(今回はHair Stylisticsや元Wolf EyesのAaron Dilloway等)を使用して製作するシリーズの第一弾(vol.2も発表済み)。各素材の音の切断面をスリリングに聴かせていく構成力は流石の一言。この箇所の素材は誰が作ったんだろうなと考えながら聴くのも楽しい。

・V.A/We Need Some DISCIPLINE Here. (Self-Released)
小岩Bushbashで定期的に開催されているKLONNSとGRANULE(RIP)の共同企画から発展したコンピ。ウィッチハウスから始まりクラスト、EBM、トラップと様々な音楽が混在した内容は人によっては昔のRAWLIFE等を想起するかもしれないが、享楽的なパーティーノリは一切なく、冷たく黒いムードが全体を覆っている。この不穏さがある意味Disciplineという言葉を体現していると言えるのかも。

・Anisakis/大いなる (TAGUCHI SOUND)
日常的だが奇妙な雰囲気の情景描写が中心の歌詞(メンバーが自由律俳句の創作もやっているらしい)と、タイトなポストパンクスタイルの演奏が不思議なバランスで混じり合い、緊張感とオリジナリティを生み出している怪盤。8月に渋谷で観たレコ発ライブも素晴らしかった。

・Jim O’Rourke/Shutting Down Here (Portraits GRM)
GRM(フランス音楽研究グループ)が新しく始めた、現行の作家による電子音楽シリーズの第一弾。流石GRMというべきか、音の鳴り方が素晴らしくアナログ至上主義では決してない筆者でもレコードという媒体の出音の良さを改めて感じることが出来た。もちろん内容は言わずもがなで、ジム・オルークのエレクトロアコースティック作品の中でも指折りの出来。ちなみにアートワークはsunn0)))のスティーヴン・オマリーが担当。

・Roland Kayn/Scanning (Reiger Records Reeks)
サイバネティックミュージックと評された電子音楽家の82年から83年にかけて制作された未発表音源集(リマスターはジムオルークが担当)。CD10枚組というボリュームもさることながら、音の方も有機的な電子音のアンサンブルが、まるで膨張し続ける宇宙空間のような果てしないスケールを感じさせる。

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鈴木智士(Gray Window Press)

・Ulver/Flowers of Evil (House of Mythology)
前々作あたりから完全にシンセ・ポップに振り切ったUlverの新作。Garmの声はさらに心地よくなって、とにかく聞きやすくてひたすらリピートしてよく聞いた。ジャケは『裁かるるジャンヌ』で、キャッチーな3曲目には『マッドマックス2』の写真で、その次のページ、“Hour of the Wolf”とベルイマンの映画から拝借したと思しきタイトルの曲の横には『顔のない眼』の娘の全身ショットが載ってて、最近は映画にインスパイアされて曲作ってるのかなと(ただ『顔のない眼』の肖像権クレジットには「“Woman without a Face” 監督:グスタフ・モランデル」と書かれてて、どうやらベルイマンに引っ張られた誤植っぽい…)。

・Cro-Mags/In the Beginning (Mission Two Entertainment)
面白かったハーレー・フラナガン自伝を読んだからというわけではなく、ほとんど2020年版“The Age of Quarrel”ともいえるこの緊張感が、あれこれ起きた末にCro-Magsの名義でついに戻ってきたんだなと確認できるアルバム。ハーレーも出てる“Between Wars”という映画に提供したインスト音源も収録。

・Kali Malone/The Sacrificial Code (iDEAL Recordings)
アンビエントやドローンを熱心に追いかけてるわけじゃないので、このオルガンの音がどうとかこれらCD3枚のそれぞれの音の違いがどうとか細かく説明することはできないが、メロディと音の質感、音の「間」が中毒的に心地よく、仕事中に、寝るときに、これは本当によく聞いた。私の葬式ではこれを大きめの音で流しといてほしいです。

・Funereal Presence/Achatius (Sepulchral Voice Records)
お世話になってるRecord Boy大倉氏からいつもこのあたりは教えてもらうんだけど、これはNegative Planeのドラムのソロ・プロジェクトの2nd。ただLPは買い逃したのでとりあえずmp3で聞いただけだが、これがオカルト・ブラックメタルの変異種の小物としておくにはもったいないクオリティだった。高校生のころに初めてEmperorの“Anthems to the Welkin at Dusk”を聞いて、この世にはこんなにきれいで恐ろしい音楽があるのかと衝撃を受けたときと似たような感覚を39歳で再び得たのです。(特にドラムの)録音が生っぽいのに大仰で長尺な曲を聞かせるメロディはクセになる。

・Leila Abdul-Rauf/Diminution
元々フロリダでMemento Moriなんかをやって、今はベイエリアでVastumなどでギターを弾いているLeila Raufのソロ3作目。bandcampがたまにやっている、「特定の金曜には収益をそのままアーティストに渡す」日にまとめて音源を買った。基本的には少しボーカルも入ったネオフォーク~ダークアンビエントだが、管楽器が違和感なく入ってるのがポイント。まあこれも仕事用BGM、寝るとき用だったけど…。
ハードコア->デスメタルという流れはもうまったく珍しくなくなったが、そこからソロを始めるという選択肢も最近増えてきたような気がする。CDはもう金にならない(日本を除いて誰も買わない)から、bandcampと枚数限定のレコードでどれだけ生活の足しになるのかわからないが、彼女のような素晴らしいミュージシャンが音楽だけで生活していけるようになれば、もっとたくさんいいものが聞けるのになあと。

・『別冊1』で取り上げた音源、取り上げなかった音源
さすがに歌詞だけ読んで(最近ならbandcampや歌詞まとめサイトで確認できる)何かを書いたりチェックや編集するわけにもいかないので(アートワークやインサートは依然大事です)、現物を持っていない音源はいくつか買ったが、その中でもSpecial Interest/Spiralingは音楽的にも姿勢的にも新しいパンクのかたちを提示していてよく聞いた。「別冊1」に入り切らなかった音源は「2」に回します…。