『原初の叫びを上げるもの』「あとがき」補記その2:『A Tribute to Rudimentary Peni』CD


2012年にイギリスのPumpkin Recordsというレーベルから、Rudimentary Peniのトリビュート・アルバムが出ている。これは当時話題になったのか、まったく記憶にないのだが、そのころ私はパンクの音源を買うのをほとんど止めていたので、ただ知らなかっただけなのかもしれない。このCDを購入したのは、本書『原初の叫びを上げるもの』の翻訳作業をしていたごく最近のことだ。
2007年に当時やっていた無我というバンドが活動停止し、翌年に2ndアルバムのレコーディングをして解散してからは、ハードコア・パンクへの興味が失せてしまい、おまけに無職の時期も何度かあったので、生活のためにと持っていた音源や本を結構売ってしまった。友人にあげたりもした。その後も何年かに一度は売って、また懐に余裕ができたら買い始めて、を繰り返してきたので、手元にろくなレコードは残っていない。新型コロナに罹って死にかけたときには結構な数を売った。そうこうしているうちに、レコードは高くなり、気軽に買えるものではなくなった。90~2000年代は輸入盤LPも1000円台で買えたので、いろいろ聴くにはいい時代だったのかもしれない。こういったハードコア・パンクの音源はサブスクに入っていないものも多いし、Youtubeにすらないものもある。アンダーグラウンド・メタルはだいたいどこかにあるのだが。

という昔話はどうでもいい。このトリビュートCD、参加しているのはリリース時の2012年ごろに活動していたと思われるイギリスのバンドが多く、知っているバンドはかなり少ない。The Restartsは当然知っているが、Autonomads、Burnt Crossは名前を聞いたことがあった程度、他にはDoom周辺のメンバーがやっている、その名もPolice Bastard、あとまだやってたのかと驚いた、アメリカ・フィリーのウーグル的フォーク・パンク(昔現地でメンバーに会った記憶がある。フォーク・パンクは非常に苦手だ)Mischief Brewなども参加しているが、その他のバンドは聞いたこともないようなバンドばかりである。

実際に内容を聴いてみても、Autonomadsのダブっぽい曲調のカバーが記憶に残るくらいで、全23バンドも入っているのに、これはかっこいい!と思うようなバンドはいない。From the Cradle to the Raveという打ち込みのバンドも入っているが、原曲をそのままやっているだけのバンドがほとんどだ。まあ好みの問題かもしれないが。ただそもそもRudimentary Peniのトリビュート・アルバムなのに、ブックレットに載っているイラストがどれも恥ずかしいほどダサく(本ページのトップのイラストがジャケット)、これを作った人はRudimentary Peniやニック・ブリンコのイラストのことをまったく理解していないのではないかと思うほどに、ひどい仕上がりである。せめてニック・ブリンコに交渉して、氏のイラストをジャケットに使わせてもらうくらいできなかったのだろうか。
ブックレットに記載の文章を読むと、「CrassやDead KennedysのトリビュートはあるのにRudimentary Peniがないのはおかしい(大意)」ということや、「この地球という精神科病棟にさまよう私たちの混迷を補完するサウンドトラックを、Rudimentary Peniは作り上げたのだ」等々書いてあるが、どれも的を外しているようにしか思えない。肯定的に捉えれば、Rudimentary Peniはヨーロッパではそれくらい影響力のあるバンドだということか。おまけに最後の方にある、「かび臭い古本屋の棚に置いてあるような、1960年代に書かれたラヴクラフトへのオマージュ作品のように、このコンピレーションははじめから失敗が運命づけられているのだ」という一言は、なんとも聴く側の興味を削ぐ。さすがに自信がなさすぎるだろう。Rudimentary Peniの音に近づくことができないとわかっていたのならば、なぜこのようなものを作ってしまったのか。そもそもはじめからこんな企画をしなければよかったのではないか。まさに自己満足以外の何物でもないようなトリビュートなのだが、こういうことは安易にやってはいけない見本のような音源である。もちろんRudimentary Peniの解釈は様々であるし、そもそも容易に解釈されるのを拒むようなバンドであるのは本書を読んでいただければわかるかと思うが、カバー、トリビュート音源というのはどうしてもその“音”だけをなぞるわけで、表面的になぞっただけの音でそのバンドの歴史やセンスを表現することなどできないのは自明なので、過度な期待をしても仕方ないのかもしれない。バンドがライブでカバーをして敬意を表す程度で十分なのだ。

ちなみに今パッと思いついた私の好きなカバー音源は、State CraftによるSlayerの“Spirit in Black”。これはギターのハモリや途中にブラスト、キーボード、ハーモニクスまで入り、メインのリフの踏襲以外は原曲を完全に超えてしまっている。1999年にAftershockとのSlayerトリビュートSplit 7インチとして出ていた。

(追記)
ここまで書いてしばらくして思ったが、パンク、ハードコアのバンドに対するトリビュート・“アルバム”というのは、そもそもロクなものがないのではないだろうか。基本的には原曲通りにカバーするバンドばかりだし、それで面白いのなら別に構わないが、そのままカバーするだけなら、やはりライブでやるとか、1曲だけ自分のバンドのアルバムに入れるとかで十分なのだ。昔メンツが微妙なPoison Ideaのトリビュート・アルバムがあったが、ドラッグのやり取りの電話から始まるPaintboxの曲だけは、Poison Ideaのいろんな曲+αを切り貼りした構成で、圧倒的に狂ってて度肝を抜かれた。あれはすごい。私はおそらくああいうカバーが聴きたいんだろうが、あんなことをできるバンドはそうそういないので、やはりアルバム1枚が全部単調なカバーとなるとつまらない、という結論に至った。あるいはSlayerの『Undisputed Attitude』とか、Ramonesの『Acid Eaters』みたいに、1つのバンドがいろんなバンドのカバーをするのは楽しめるのかもしれない。あと『Punk’s Not Dread』は楽しいアルバムだな…。

(2026/5/19)

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