※Debacle Pathは不定期刊なので、その間に書き溜まったような、いつ日の目をみるかもわからない記事は、このサイト上に投稿していきます。
映画『グッド・ヴァイブレーションズ』から想起するベルファストのアナーコ・パンク
鈴木 智士(Gray Window Press)
今夏、2012年のイギリス/アイルランド映画、『グッド・ヴァイブレーションズ』が公開された。私はこの映画のことをまったく知らなくて、当レーベルの書籍の販売でもお世話になっている高円寺のRecorshop Baseの飯島さんに教えてもらい、最初のシネマカリテでの上映は案の定気付いたらあっという間に終わっていたので、先日渋谷HUMAXでようやく観てきた。
映画自体は、北アイルランド紛争のさなかに、「無謀にも」レコード店を始め、パンクと出会い、The UndertonesやRudiなど、ベルファストを中心に北アイルランドのパンク・バンドを世に送り出したテリー・フーリー(Terri Hooley)を主役に持ってきた、史実に基づく、言わば「パンクの歴史モノ」だ。北アイルランド紛争の背景などを知っておいた方が、物語の裏側で何が起きているのかよくわかるし、ロンドンとベルファストの物理的、精神的な距離感も頭の中に入れておくといいのかもしれない。そもそも初期パンクに興味がないと面白くないのかもしれないが、初期パンクにそんなに興味がないというか、そのあたりはバンド名くらいしか知らない程度のインチキな私でも(さすがに“Teenage Kicks”くらいは知ってたが)、まあそういった「名曲」が使われるシーンで気持ちが高ぶるようには作られている。あと警察をみんなで追い出すシーンとかも。ややテリー・フーリーをヒロイックに描きすぎている気もしないでもないが(実際にヒーロー的な扱いだったのかもしれないが)、ジョン・ピールってやっぱり偉大なんだなとか、オーディエンスの中に2000年くらいのパンクファッションみたいなのが見えたり、1980年あたりの話にCasualtiesのバックペイントをした革ジャンが出てきたりと、パンク・ファッションの歴史考証みたいな視点でも楽しめる映画だ。ただ日本語字幕がちょっと変で、パブリックドメイン映画などのワンコインDVDくらいでしかお目にかからないような、2名の話者のセリフを分けずに頭に「-」を付けて2行で表示する、という英語字幕によくあるような字幕表示が気になった。あれは日本語字幕だと見慣れないスタイルなので、何か気持ち悪かった。
と、映画の感想はこれくらいにしておいて、観終わってふと考えた、北アイルランド、ベルファストのアナーコ・パンクのことをここでは書いておこう。
映画の中でも語られていたが、1978年あたりだとロンドンではすでに「パンクは死んで」おり、しかも紛争地帯のバンドのことを、多少気にはしてもレコードをかけたり買ったりしてくれるレーベルはもういない。時代遅れの田舎者扱いだ。だからテリー・フーリーがレコードを持って営業に行ってもまったく受け入れられない。そしてどの組織や派閥にも属さず、「自分たちでやる」という、広義の“DIY”のパンクロックというだけで、ナチスキンズにテリー・フーリーがボコボコにされるシーンもある。
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